雑誌「チルチンびと」82号掲載 小笠原からの手紙
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株のまわりには常に3〜4株の子株があり、翌年にはそのいくつかが開花するので、小笠原では毎年たくさんの花を見ることができる。 アイダガヤは20年ほど前に小笠原に入ってきたイネ科の植物で、道路沿いや伐採地跡に素早く侵入し密生した群落をつくり、他の植物を寄せつけない。さらに、前に生えていたヒゲシバ類やセイバンモロコシなどの侵略性の強い外来種も、いつの間にかアイダガヤに入れ替わってしまう。 遊歩道の周辺や父島周辺にも侵入し始めていて、その駆除には苦労している。現在の小笠原での侵略的草本では最強である。密生しているところは、全体が紫褐色で美しい。 以上、小笠原の外来植物の状況を駆け足で見てきた。これは氷山の一角でしかない。特に人の住んでいる父島や母島では、年々新手の外来種が入ってくる。両島とも現存の植物のうち40%近くが外来種である。世界遺産に登録されてから人の往来が増え、それに伴い外来種が多くなるが、その繁殖力はクリノイガと同様「かえし」のある刺で人や動物に付着して広がる。以前は父島や母島など人の住む島に生息していたが、今では周囲の離島にも広がり、悩ましい植物の一つである。 オオバナセンダングサは背丈が高いので、在来の草原に入り込むと、他を圧倒しその生育環境を変えてしまう。離島も父島並みになろうとしている。 熱帯アメリカ原産の大型草本で、根元から20~30枚の肉厚の長い葉を出す。葉の縁には鋭い刺があり、先端も太い刺になっている。 乾燥に強く、荒れた斜面などに群生する。6、7月頃に高さ数メートルの花茎を伸ばし、その花茎から多数の枝を出し、その先端に盤状にたくさんの花を付ける。花は上向きの漏斗状で、その中に甘い蜜がたっぷり入っている。花の時期にはオガサワラオオコウモリが蜜を求めて集まってくる。花が終わるとその株は枯れる。 花が咲くまでに何年もかかるので、百年植物(century plant)と呼んだりするが、親 東京都は毎年継続してクリノイガ駆除を実施している。今では非常に少なくなったけれども、一度手を抜くと少数の個体から瞬く間に回復する。これが侵略的外来種の一つの特徴である。 キク科もイネ科と並び帰化種が多く、20種は下らない。その中の一つとしてオオバナセンダングサを挙げる。白くて大きい舌状花を開ききれいな草花であるというのは、何とも皮肉である。 関係機関は手をこまねいているわけではない。林野庁、東京都、小笠原村、そしてNPOも参加して外来種駆除に取り組んでいる。小笠原本来の植物が生い茂る美しい島々を次の世代に遺すことが、島の人びとの願いである。アイダガヤ小笠原では最強の侵略的草本オオバナセンダングサ人や動物に付着して広がるアオノリュウゼツランオガサワラオオコウモリ観察に一役の一面もアイダガヤ熱帯から亜熱帯にかけて広く分布するイネ科の多年草。群生地は美しい紫褐色に染まる。花穂は入り乱れてたくさん出る。オオバナセンダングサ熱帯アメリカ原産のキク科の1年草。ほかのセンダングサよりも大きくてきれいな花を付ける。美しい花だが、暴れだすと手に負えない。アオノリュウゼツラン熱帯アメリカ原産のリュウゼツラン科の植物。海の崖にも生え、毎年大きな花茎を伸ばす。花の杯には甘い蜜がたっぷり入っている。177

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