雑誌「チルチンびと」81号掲載 小笠原からの手紙
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 もともと自然に植物が生育しているところに、いろいろな目的(農業、園芸など)で人為的に導入したり、荷物に付着して種子などが運ばれてきた植物を、帰化植物と呼んでいる。近年は外来植物と呼ぶことが多くなっている。外来植物が新しい生育地(小笠原の島々)に定着すると、在来の植物との競争や交雑により在来の植物の生育を脅かし、島の固有種を絶滅の危機に追いやったり、島の生物多様性を破壊したりする。このような帰化種は、特に侵略的外来種と呼んでいる。 小笠原の島々は、海底火山により大洋に出現した時には植物はまったくなく、その後、鳥や海流により大陸から運ばれて島の植物相ができた。これらのメディアにより運ばれない植物(たとえば、ドングリの実をつけるブナ科のもの)は渡来できない。したがって大陸の植物相と比べると、いくつかの種が欠落し偏った植物相である。ということは、植物が生育する環境(場所)に空きがあるということで、外来植物が容易に定着し増殖する。トウダイグサ科のアカギは大陸島である沖縄では、外来種であるがあまり増えることはない。海洋島である小笠原では猛威をふるっている。 世界自然遺産登録により駆除が義務づけられている外来種のうち、対策に手を焼いている例をいくつか挙げてみる。 父島に船が近づくと弟島、兄島が近くに見えてくる。これらの島々の緑は多くは外来種のモクマオウで、一名オガサワラマツと言われるが、針葉樹ではない。緑の細長い葉のように見えるのは実は枝で、葉はほとんど退化して、枝の節に数ミリの半透明のものが付着している。モクマオウはオーストラリアや東南アジアに自生する樹木で、潮風に強く、海岸や崖などやせた土地にも育つ。父島列島は土壌の浅いところが多く、そこには乾性低木林が広がっているが、尾根や乾性低木林にも入り込み、低木林を押さえつけている。 アカギは湿潤なところを好む。母島の中部から北部にかけ見事なアカギ林を構成している。林下の樹木や林床の植物を制圧し、在来植物を衰退させている。 林野庁では二十数年前から幹を形成層まで1回剝がして(環状剥離)枯らそうとしたが、剥世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。文、写真・安井隆弥父島で猛威をふるうモクマオウ母島の植物を圧倒するアカギやすい・たかや/1931年生まれ。生物教諭として都立八丈高等学校勤務を経て、78年〜91年、都立小笠原高等学校勤務。定年退職後も小笠原に留まり小笠原野生生物研究会を設立。2000年にNPO法人化、理事長となる。著書に同会著『小笠原の植物 フィールドガイドⅠ、Ⅱ』(小社刊)がある。PROFILE小笠原の帰化植物 前編vol.151:モクマオウで覆われた林。在来の植物は完全に圧倒される。2:緑の枝の付け根に咲くモクマオウの雌花。やがて球形の実となる。 3:3月になると、モクマオウの緑の枝先に付いた褐色の雄花から花粉が飛び散る。4:大木となり、在来の木々を覆い尽くすアカギ。1324190

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