雑誌「チルチンびと」70号掲載 小笠原からの手紙
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母島は父島の南約
50
キロメートル、
南北に細長い島で、父島から「はは
じま丸」に乗り2時間ほどで沖
おきこう
港に
着く。船から降りるときには、海水
を浸したマットで靴底の土を拭き取
る。これはニューギニアヤリガタリ
クウズムシ(*1)という肉食性のプ
ラナリアの一種を母島へ入れないた
めの手段である。
乳房山コース
母島最高峰(463メートル)を巡る
集落のはずれに左右二つの登り口
がある。どちらから登っても帰りは
反対側に出てくる。登り始めて1時
間余りは急坂だが、尾根に出ると緩
やかな山道で、母島列島の島々を眺
めたり、絶滅危惧種の猛禽類オガ
サワラノリ
スがゆうゆ
うと飛ぶ姿
を見るのも
長の
どか
閑である。
このコー
スには小笠
原の固有種
が多く、ワダンノキ(*2)、ハハジ
マノボタン、シマザクラ、オガサワ
ラシコウランなどが見られる。また、
メジロ、ハシナガウグイス、天然記
念物のハハジマメグロといった鳥も
見ることができる。休憩したり食事
をしていると、
50
センチくらいまで
近づいてくることもある。一周3~
4時間かかるやや健脚向きのコース
である。
南崎、小富士コース
集落から南へ車で
10
分ほ
どで遊歩道入口に着く。こ
こからは起伏があまりなく、
1時間ほどで南崎海岸に着
く。途中で万お
もと
年青浜、唐
とう
な
す海岸や蓬
ほう
.らい
根ね
など脇道に
入って、海辺の景色や植物
を楽しむこともできる。
遊歩道入口から間もなく、
ハハジマトベラの群落がある。道沿
いには、アカテツ、オガサワラビロ
ウ、タコノキなどが多い。また、ウ
グイスやハハジマメグロの鳴き声を
聞きながらテリハボク林の中を通る
涼しい道もある。南へ進むと蓮
はすいけ
池と
いう沼地があり、オオサンカクイが
群生している。さらに南へ進むと、
摺り鉢のように丸く抉れた「すりば
ち」もある。そして終点の南崎海岸
に出る。
玉石の広い海岸で、目の前には
鰹
かつおとりしま
鳥島から平
ひらしま
島へ連なる島々が見ら
れる。また、カツオドリやオナガミ
ズナギなどが飛び交っている。
南崎の少し手前を左へ入ると小富
士の登山道で、頂上からは妹島、姪
島、姉島などが間近に見られる。
北
きたこう
港コース
集落から北港までは車で約
30
分か
かる。途中、固有種や鳥もよく見ら
れる桑ノ木山、東港にも寄ることが
できる。北港は奥深い入り江で、戦
前は捕鯨基地があり、600人余り
が暮らしていた。北港の少し手前に
は明治
20
年に開校した北村小学校跡
があり、残る門柱がガジュマルで覆
われている。
小笠原からの手紙④
文と写真*安井隆弥
母島に足を延ばして
ハハジマノボタン
母島の固有種。陽当たりを好み、7
~8月に淡い赤紫色の花をつける。
乳房山周辺に自生。
シマザクラ
林縁や疎林地、岩場に生えるアカネ
科の常緑小低木。薄い紫白色の花が
7~9月に咲く。
ワダンノキ
母島の脊梁山地に多く、筒状で淡い
紅紫色の花をつける。
沖港と母島の最高峰・乳房山。
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