雑誌「チルチンびと」70号掲載 小笠原からの手紙
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132  母島は父島の南約 50 キロメートル、 南北に細長い島で、父島から「はは じま丸」に乗り2時間ほどで沖 おきこう 港に 着く。船から降りるときには、海水 を浸したマットで靴底の土を拭き取 る。これはニューギニアヤリガタリ クウズムシ(*1)という肉食性のプ ラナリアの一種を母島へ入れないた めの手段である。 乳房山コース 母島最高峰(463メートル)を巡る  集落のはずれに左右二つの登り口 がある。どちらから登っても帰りは 反対側に出てくる。登り始めて1時 間余りは急坂だが、尾根に出ると緩 やかな山道で、母島列島の島々を眺 めたり、絶滅危惧種の猛禽類オガ サワラノリ スがゆうゆ うと飛ぶ姿 を見るのも 長の どか 閑である。  このコー スには小笠 原の固有種 が多く、ワダンノキ(*2)、ハハジ マノボタン、シマザクラ、オガサワ ラシコウランなどが見られる。また、 メジロ、ハシナガウグイス、天然記 念物のハハジマメグロといった鳥も 見ることができる。休憩したり食事 をしていると、 50 センチくらいまで 近づいてくることもある。一周3~ 4時間かかるやや健脚向きのコース である。 南崎、小富士コース  集落から南へ車で 10 分ほ どで遊歩道入口に着く。こ こからは起伏があまりなく、 1時間ほどで南崎海岸に着 く。途中で万お もと 年青浜、唐 とう な す海岸や蓬 ほう .らい 根ね など脇道に 入って、海辺の景色や植物 を楽しむこともできる。  遊歩道入口から間もなく、 ハハジマトベラの群落がある。道沿 いには、アカテツ、オガサワラビロ ウ、タコノキなどが多い。また、ウ グイスやハハジマメグロの鳴き声を 聞きながらテリハボク林の中を通る 涼しい道もある。南へ進むと蓮 はすいけ 池と いう沼地があり、オオサンカクイが 群生している。さらに南へ進むと、 摺り鉢のように丸く抉れた「すりば ち」もある。そして終点の南崎海岸 に出る。  玉石の広い海岸で、目の前には 鰹 かつおとりしま 鳥島から平 ひらしま 島へ連なる島々が見ら れる。また、カツオドリやオナガミ ズナギなどが飛び交っている。  南崎の少し手前を左へ入ると小富 士の登山道で、頂上からは妹島、姪 島、姉島などが間近に見られる。 北 きたこう 港コース  集落から北港までは車で約 30 分か かる。途中、固有種や鳥もよく見ら れる桑ノ木山、東港にも寄ることが できる。北港は奥深い入り江で、戦 前は捕鯨基地があり、600人余り が暮らしていた。北港の少し手前に は明治 20 年に開校した北村小学校跡 があり、残る門柱がガジュマルで覆 われている。 小笠原からの手紙④ 文と写真*安井隆弥 母島に足を延ばして ハハジマノボタン 母島の固有種。陽当たりを好み、7 ~8月に淡い赤紫色の花をつける。 乳房山周辺に自生。 シマザクラ 林縁や疎林地、岩場に生えるアカネ 科の常緑小低木。薄い紫白色の花が 7~9月に咲く。 ワダンノキ 母島の脊梁山地に多く、筒状で淡い 紅紫色の花をつける。 沖港と母島の最高峰・乳房山。

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