雑誌「チルチンびと」68号掲載 小笠原からの手紙
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小笠原からの手紙 ② 写真・文 _ 安井隆弥 (小笠原野生生物研究会代表) 小笠原のラン科植物 小笠原群島に生育しているラン科植物には10種余りがあるが、そのほとんどが固有種(*1)であり、また絶滅危惧種でもある。その中から3種を紹介しよう。 アサヒエビネ  8月頃黄色い花をたくさんつける。葉は本州のエビネより幅が広く大きい。遊歩道沿いでも見られる。父島の旭山に因んで名づけられたエビネである。 チクセツラン   薄暗い林床に生育し、笹のような茎が1メートル余りに立ち上がる珍しいラン。7月頃節々か1ら花柄が伸び、細長い白花を数個つける。母島の遊歩道沿いで見られる。個体数は少なく絶滅危惧種である。 イモラン   無葉ランで6月頃に花茎が地面から現れ、30〜40センチメートルに伸びると、薄紫色の花を多数つける。地下茎は芋状で、1年のうち初夏にだけ地上に現れる。希産種でもある。 小笠原が「世界自然遺産」に決定 平成23年6月24日、第35回世界遺産委員会は小笠原諸島を世界自然遺産に登録することを決定した。白神山地、屋久島、知床に次いで、日本では第4番目の自然遺産である。  登録までの経過を辿ると、19年2月に政府は小笠原を候補地に決定。専門家による多方面の調査をもとに、小笠原の自然を解析し、22年1月に推薦書をユネスコに提出。同年7月にIUCN(国際自然保護連合)の専門家2名による現地調査が行われた。その後、多岐にわたる検討会議を経て、23年5月にIUCNによる評価報告書がユネスコに提出された。評価の要点は、「小笠原は固有種が多い。特に陸産貝類(かたつむり)と維管束植物(*2)は高い固有率である。また適応放散の証拠が多く、進化の過程を示す」。また、注文として、「外来種が多く、更なる外来種の侵入にも対処が必要である」と、記されている。 トベラにみる適応放散 一つの種が、異なった環境に適応して、形態や生理機能に違いが出て、いくつかの種に分かれることを適応放散という。小笠原のトベラを例にあげると、父島の固有種〈オオミトベラ〉は葉や果実が大きく、林縁や林内のやや湿気のあるところに生育する。同じく父島の固有種〈コバトベラ〉は葉が肉厚で小さく乾燥に強い。乾性低木林内に生育する。母島列島の固有種〈ハハジマトベラ〉は母島やその離島のやや海岸よりに生育する低木。〈シロトベラ〉は小笠原群島全域に生育する。前述の3種

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