雑誌「チルチンびと」67号掲載 小笠原からの手紙
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P2 さしく大陸島だからである。 生物進化の島・小笠原 以上のようにして小笠原にやってきた植物の祖先は、島に棲み着いてから、長年にわたり大陸から隔離されたので、元の植物との遺伝子の交流ができなくなり、次第に大陸の植物とは遺伝子や形態が異なったものになってくる。これが生物進化の第一歩である。かくして同じグループの植物でも、小笠原特有の植物として位置づけられる。このような植物を小笠原の固有種という。 もともと小笠原に生育していた植物は300余種で、その約3割が固有種である。このように海洋島では、一般に進化が起こりやすく、ダーウィンで有名なガラパゴス諸島やハワ イ諸島も進化の島である。 小笠原の固有種を少し紹介しよう。「ムニンフトモモ」は父島列島の固有種で、花びらは発達しないで朱色の雄しべがたくさん出る。9月頃開花。「ムニンノボタン」は、東南アジア系の植物で、父島の固有種。純白で花びらは4枚。東京の植木屋にあるノボタンは紫色で花びらは5枚だ(これが原種)。「ムニンヒメツバキ」は5月頃純白の花をたくさん付け、この林の中を歩くとほのかな甘い香りがする。 11月頃まで少しずつ咲く。小笠原の固有種で、小笠原の「村の花」になっている。種子は平べったく軽い。 島の生活 定期船「小笠原丸」は6日に一度来島する。入港日の夕方は島の人びとがお店にどっと押し掛け、6日分の果物や野菜、牛乳などをまとめ買いする。船は父島に着いて3泊すると出港する。この間は賑やかで、船が島を離れると急に静かになり、次の入港を待つ。島の生活のサイクルは船の入出港に合わせて流れていく。  船が出た後は、島の人たちはウィンドサーフィンやダイビング、テニスなどを楽しむ。年輩の人たちはゲートボールやグラウンドゴルフをしている。 やすい・たかや 1931年生まれ。生物教諭として都立八丈高等学校勤務を経て、78年~91年、都立小笠原高等学校勤務。定年退職後も小笠原に留まり 小笠原野生生物研究会を設立。2000年にNPO法人化、理事長となる。著書に同会『小笠原の植物 フィールドガイドⅠ、Ⅱ』(小社刊)がある。 ムニンヒメツバキ(ツバキ科) 常緑高木で高さ78m、花期 56月。島内に広く分布するが、 山地の中腹から上に生育する。 距  離 (km) 東京から父島まで 父島から母島まで 父島から聟島まで 父島から西之島まで 父島から硫黄島まで 硫黄島から沖ノ鳥島まで 硫黄島から南鳥島まで 約1,000 約1,050 約1,070 約1,130 約1,280 約1,600 約1,100 ムニンヒメツバキ(ツバキ科) 常緑高木で高さ78m、花期 56月。島内に広く分布するが、 山地の中腹から上に生育する。 距  離 (km) 東京から父島まで 父島から母島まで 父島から聟島まで 父島から西之島まで 父島から硫黄島まで 硫黄島から沖ノ鳥島まで 硫黄島から南鳥島まで 約1,000 約1,050 約1,070 約1,130 約1,280 約1,600 約1,100 Information 観光シーズンは年末から正月で、 元旦が海開きだが、3、4年前から低温気味で 正月に泳ぐ人はあまりいない。冬から春にかけ、 鯨が小笠原周辺の海で出産、子育てをする時期 は、ホエールウォッチングの客で賑わう。5月 の連休も観光客は多いが、通常は天気があまり よくない。6月になると、夏の季節で海も凪い で、船に弱い人にはベストシーズンだ。夏は賑 わうシーズンでお盆の頃は帰省客も多く、さま ざまなイベントがたくさん催される。  夏頃から台風が通過することがあるので、天 気予報を見て計画を立てたほうがよい。ここ2、 3年、気温は低めだが、通常だと、1年中シャ ツ1枚で過ごせる冬のない穏やかな島である。

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