小笠原からの手紙「母島の森とのかかわり」
2/2

一般には希釈したり噴霧して用いる除草剤の原液を直接注入するにもかかわらず、簡単に枯れな い。細いアカギではよい効果が期待できるが、大径木では葉や細枝を落とし、一見枯れたように見えてもじきに芽吹き、再生する。また、すべて枯れたように見えても地中の根から何本も萌芽をだす。  伐採して切株になっても萌芽をたくさんだし、放置するとやがて主幹となりアカギが再生する。切った枝や幹を地面に置いておくと簡単に萌芽する。相当小さなかけらからでも萌芽する。一筋縄ではいかない。  薬剤注入作業をしながら、「このアカギの強靭な生命力、何かほかのことに使えるのでは?」といつも思ってしまう。育毛剤とか若返りの薬とか。そんなことを考えつつも、「お願いだからこの一発で死んでくれ」などと物騒なことを念じながらの果てしない作業である。  しかし少しずつではあるが効果は現れている。大量に種子を生産するアカギではあるが、種子の寿命は2 年ほどと短く、数年林床の幼樹を駆除していくと、効果が目に見えてくる。また、高木を伐採したり、うまく枯らして数年経つと、下層の在来種が枝を発達させ、アカギのギャップを埋めようと茂り、木漏れ日きらめくすてきな樹冠を形成している様を見るのは喜びである。ただし、萌芽と稚幼樹への注意は怠れない。先は長く、効率的な駆除方法を模索しながらの、気長で地道な作業は将来へ続く。  作業エリアは、一般利用されないエリアが多く、なかなか人目に触れることのない生物や現象との出会いはこの仕事の醍醐味でもある。それは植物のみならず、動物や菌類、戦前の遺物までさまざまで、思いがけない発見もありワクワクする。例えば植物では地域限定の希少種はもはや当たり前という贅沢な環境で、出会えてもっともうれしいのは、オガサワラグワである。生きている個体はほぼ把握されているが、樹勢が弱っているものが多く、ちゃんと葉をつけている様を確認できるとホッとする。またシダ植物の一種、コブランは1983 年以降未確認状態が続いていたが、2012 年に母島で生育が再確認された。過去の生育情報からずっと注意していたが、2014 年10月、石門で発見できたのはうれしかった。このほか、ひっそりと生きるゼニゴケシダや、オガサワラシコウランが華やかに咲きそろう抜群のタイミングなど、多様な種のさまざまなステージに遭遇できる機会が多いことは幸運である。  また植物以外では、ヤブニッケイモチビョウは、それまで世界で八丈島のみに生息するとされていたが、見つけた株と同時期に石門内で確認された株の調査研究により母島が世界2カ所目の生育地と確認されたことは驚きであった。このような気づきや発見が、小笠原の生物研究や保全にわずかでも役立つことを願い、今後も楽しみながら情報収集に勤しみたい。

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る