小笠原の植物にかかわる人のあこがれの地、石門。その名の通りかつてはオガサワラグワの山だった桑ノ木山。自然豊かに見えるこれらの森は、人間がかかわるようになって以来百数十年、外来種の脅威にさらされている。その自然再生のための外来種駆除作業等で日々わたしは母島の山に通っている。 乳房山山頂、あるいは石門ルート途中から北に目を向けると、白い大崩れの斜面の上に穏やかに広 がる樹林が見える。小笠原を代表する石門の湿性高木林である。カルスト台地の深い土壌の上に発達した樹林は群落高20メートルにもなり、ウドノキ、テリハハマボウなどの巨木が育ち、林内はその名を冠したセキモンノキ、セキモンウライソウや、タイヨウフウトウカズラ、ムニンミドリシダ、オトメシダなど石門のみにしか生育しない希少種や、固有種の宝庫である。明治時代にはたくさんの樵が押し寄せ、なかでも固有種オガサワラグワは高級材として乱伐され、現存するものは極めて少なく、林内に黒々と残る切株が往時をしのばせる。 アカギは島内の燃料の自給をめざし、薪炭用の造林樹種として1905 年以前に琉球から持ち込まれた。非常によい生長を示したことから、母島では桑ノ木山、長浜、石門山などに植栽された。侵略性の非常に強い樹種で、生長が早いのみならず種子を大量生産し、アカギが優占すると林内は非常に暗くなる。小笠原の生き物がかつて経験したことのない暗さとも称される。これに加えアレロパシーにより他の在来種は共存できず、台風などの攪乱の際に一斉にアカギが発芽、やがて純林化する。 戦争とその後の数十年の放置の結果、石門でも在来種が駆逐され深刻な影響を受けている。 このような状況を改善するため、林野庁により2002 年から国有林内での駆除が開始された。現在の主な駆除の方法は除草剤を注入しての薬殺で、周囲の利用経路や希少種への配慮が必要な場合には樹上から少しずつ切り下ろしていく特殊伐採等が用いられる。 除草剤を用いた駆除では、幹の地際に一周一定間隔ドリルで穴をあけ除草剤を注入、木栓をする。しかしながらアカギはとにかく強い。
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