小笠原からの手紙「セミにカビ!? 母島で国内2例目51年ぶりの発見 セミカビ属“マッソスポラ”」
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マッソスポラは2種類の胞子をつくることが知られている。一つ目は流行病の発生初期につくられる「分生子」で、米粒のような形をしており、すぐに感染する能力を持つが、寿命は短いとされている。もう一つは、1997年に母島で見つかった、インフルエンザウイルスのようなイガイガを持つ球体状の「休眠胞子」である。休眠胞子は流行の末期に形成され、すぐに感染する能力は持たないが、耐久性があり、土の中で10年以上耐え、セミの羽化時に発芽・感染する。しかし分生子から休眠胞子への切り換えや、休眠胞子の発芽・感染のメカニズムは明らかになっていない。なお、マッソスポラの休眠胞子はどの種も形や大きさが似ていて種の区別は困難であり、種の判別のためには分生子を観ることが必要である。1997年の母島での発見時は休眠胞子しか見つからず、流行病の末期と推察され、既存の種との比較・同定ができなかった。1997年の発見から2年後の1999年9月、母島へ出張していた私は、2年前と同じ庚申塚で、腹部末端に灰色で表面がビロードのような質感のキノコのようなものができているオガサワラゼミを見つけたのである。父島に戻り、キノコのようなものの表面の粉末を顕微鏡で観たところ、米粒のような粒子が多数見え、ついに分生子を観ることができたのである。そこで分生子の長さと幅を既知のマッソスポラと比較してみたところ、長さ・幅ともに一致するものはなく、「おそらくは未知種、つまり新種であろう」ということになったのである。なぜオガサワラゼミにこの病気が?その後、私は2003年に父島 から本土に移ったため、母島を訪れる機会はなかなかなかったが、2011年から8年ぶりにまた父島で暮らすことになった。2012年、この年は母島でオガサワラゼミの発生が多く、「マッソスポラによる流行病が発生しているかもしれない」と10 年以上ぶりに庚申塚に向かったが、やはりかっていないのか、他の日本のセミにこのカビが発生していないのかずっと気になっている。そして、奄美群島や沖縄諸島に分布するオガサワラゼミにきわめて近いクロイワツクツクにマッソスポラによる流行病が発生していないか、このカビが小笠原にどこからどうやって入ってきたのか、オガサワラゼミの由来とともに思いを馳せるのである。

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