雑誌「チルチンびと」100号掲載 小笠原からの手紙
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産卵が終わるとていねいに卵に砂をかけ、卵を埋めていきます。さらに周囲の砂を体の下にいれることで自分の体を元の砂浜と同じ高さまでかさ上げし、穴から脱出します。そして疲れた体を引きずり海に戻って行きます。上陸してからここまで4 時間くらいかかります。最盛期になると、多く上がる浜では一晩に10頭以上が上陸してきますが、上陸しても、産卵せずに帰るカメもいます。アオウミガメは一度産卵に来ると、2週間おきくらいに4 ~ 5 回上陸し、全部で500 個くらい産卵します。卵は2 カ月ほどで孵化し、子ガメになります。一度に産卵された卵はほぼ同時に孵化し、自力で地上まで出てきます。大穴と小穴を合わせて50〜60センチを掘り上げなくてはなりませんが、卵と卵の隙間があるので砂を掘りやすくなっています。さらに卵が孵化すると、羊水など水分が流れ出し、子ガメの周囲に空洞ができ、砂を掘れるようになります。多数が同時に孵化して空洞が大きくなることも助けになります。そして、鳥やカニなど天敵が少なく、涼しくなる夜まで待ってから、地上に出て海をめざして歩き始めます。夜は月や星の光が反射して海が明るいので、その光をめざして海にたどり着くことができるのです。それから24時間、懸命に泳ぎ続け、天敵の多い沿岸から離れ、沖合まで到達するエネルギーが子ガメには備わっています。さて、小笠原を出発した子ガメは本州近海まで泳いで来ます。主に関東以南の太平洋側から沖縄にかけての沿岸域で海藻を食べて育ちます。5 センチの子ガメが成熟した親に成長するまで30〜40年ほどかかると推測されています。そして、4 〜5 年に一度故郷小笠原をめざして1000 キロの旅に出ます。小笠原で生まれたウミガメが小笠原に戻ってくるのは不思議な現象ですが、ウミガメは地磁気を感知し正しく生まれ故郷に帰ってきます。産卵する浜にもこだわりがあり、同じ浜に産卵に来ると言われています。父島で産卵数が多いのは市街地からすぐ近くの大村海岸です。しかし、街の光にひかれて歩き出し、朝歩道で迷子になっている子ガメもいたりします。  小笠原では人の住む近くでこのような営みが行われているため、自然保護団体が中心となってパトロールし、ウミガメが産卵したところから卵を取り出し安全な場所に移したり、そこで孵化した子ガメを放流したりしています。その甲斐あって、ここ数十年の間に小笠原に産卵に来るアオウミガメは増えつつあります。ぜひ、小笠原で野生のウミガメに会ってみてください。

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