夏の夜、小笠原の砂浜を散歩しているとザッザッという砂を掃くような音と、「フハー」という大きな動物を思わせる呼吸音がしてきて、思わず足を止めることがあります。暗闇に目を凝らすと、1メートルもある物体がゆっくり動いています。これがアオウミガメです。小笠原は国内最大のアオウミガメの産卵場になっていて、シーズンの砂浜には産卵のために上陸したウミガメの足跡がたくさん見られます。本州南岸で成長し、成熟したアオウミガメは繁殖のため南下してきます。その途中でオス・メスは出会います。暑くなってくる4 月頃、小笠原近海では2匹が重なって泳ぐウミガメの姿が船から見られます。下がメス、上がオスでプカプカと泳ぎながら交尾します。頭が二つ見えるので、すぐにわかります。交尾時間は数時間に及びます。産卵までにメスは4〜5匹のオスと交尾していることが受精卵の遺伝子からわかっています。 産卵は6 月頃から始まります。上陸するのはメスだけで、暗くなった頃から上がってきます。100 キロを超す体を引きずり、ヒレで歩いて砂浜に上がってきます。上陸してくると、産卵に適し た場所を探します。この時は大変神経質になっていて、上陸してきても気分が乗らないと帰ってしまうので、動かず静かに見守ります。気に入った場所があると、そこで自分の体がすっぽり入るくらいの穴を掘り始めます。これを大穴といい、深さは30センチくらいで、甲羅が隠れるくらいになります。ここからさらに後ろ足(ヒレ)を器用に使い卵を産み落とすための直径30センチ、深さ30センチくらいの小穴といわれる穴を掘ります。 ここまで順調にいって1 時間くらいです。静かになったと思う頃、尾の下あたりからピンポン玉くらいの卵をポトポトと産み始めます。産み始めると止まらないようで、弱い赤いライトならつけて見ることができるようになります。見ていると、一度に100個くらいの卵を産みます。
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