「京都大原の山里に暮らし始めて」梶山正
4/4

125がそんな普通の親のような考えを持つようになるなんて、想像もしなかった。* 昨年、そんな悠仁が就職した。そして、今年の1月9日に悠仁の子が誕生した。僕にとって初めての孫になる。お産は約10時間苦しんだ後、胎児の頭に吸盤を付けて引っ張り出すという難産だった。母親となった来くるみ未は身長152センチ体重40 キロの小柄な体だが、赤ちゃんは3568グラムとかなり大きかったので、医学的処置が必要だったそうだ。 ベニシアは出産の知らせを聞くとすぐに孫の顔を見に行きたがった。一方、僕はどんな顔をして行ったらいいのかわからなかったので、ドギマギし、そこらをウロウロしていた。新しい状況に身を置くことに対して僕は怖がりで、それなりに心の準備が要る。ベニシアに引っ張られるように、僕は彼らが待つ産婦人科病院へ車を走らせた。 僕たちが部屋に入ったとき、赤ちゃんは気持ちよさそうにスヤスヤと眠っていた。赤ちゃんの手を見ると、ちゃんと5本の指に爪が付いていた。生まれたての悠仁の手を見て生命の神秘を感じたのは、ついこの前のことだったのに、その悠仁の子どもが目の前にいる。信じられない気持ちだ。「たくさんの愛が來て欲しいと願いをこめて、來くれあ愛という名にしました」と悠仁は説明してくれた。 そのうち來愛が目を開いた。透き通るように純粋なその目を見ていると、何かかじやま・ただし/1959年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお客として知り合い、92年に結婚した。庭の通路をツクシイバラの花が覆い、ミツバチが忙しく飛び回る。掘ったばかりのタケノコを持って友人が遊びに来た。大きな存在、生の意志と力が感じられた。お産が大変だったのに、来未は元気そうだ。なんと言っても若い。彼女の顔には、大きな目標をやり遂げて誇らしさに溢れた微笑みがあった。 大切に優しく來愛を抱く悠仁からは、早くも父親の雰囲気が感じられる。赤ちゃんの持つ力がすごいのか、お見舞いに行ったのに、逆に僕は元気をもらったようだ。幸せな家族になって欲しいと心の中で願わずにはいられなかった。

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る