雑誌「チルチンびと」88号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて
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6vol.26自分が燻煙されようが、ベーコンづくりはやめられません悪くなっていたのに、煙突掃除をせぬまま使っていた。その日、僕はそのお客さんに薪ストーブ講釈をいろいろとした後に、薪に火をつけた。煙は抜けず、家中モクモクとなり、お客さんはベーコンになるところだった。僕が偉そうなことを喋っても、この煙突が僕の薪ストーブレベルのすべてを物語っていた。とにかく掃除が先決だ。 ここ3カ月間、家に閉じこもって運動もせずに原稿書きに追われた結果、僕は人生最大の体重となっていた。煙突掃除は2段式4・5メートルのハシゴを9メートルに延ばして作業をする。久々に高いところに登るので、僕はかなり慎重に行動した。落ちてケガをしないように。4時間ほどかけて掃除を終え、うれしい気分で僕はビールをあけた。外出していたベニシアがちょうど帰ってきたので、一緒に飲んだ。一息入れたところで、長いハシゴを片付けることにした。 長さ4・5メートル、重さ20キロほどあるハシゴを家の軒下に運ぶのはなかなかの重労働だ。庭には木や花や植木鉢などたくさんあるので、ハシゴをぶつけないようそれらを避けて進むのは難しい。ハシゴの先を物にぶつけないよう、視線は足元を見る余裕がまったくない。狭い通路を直角に曲がるところで、足首に激痛が走った。ハシゴを投げ出したいところだが、とりあえず家の壁にハシゴを立て掛けて、おそるおそる足首に目をやった。クロックスのサンダルの中が血の海になっている。植木鉢の欠けた縁でやられたのだ。 コンクリートのポーチへ行き、地べたに座り込んで傷の具合を見た。深さ2センチ、長さ6センチ切れており、血が心臓の鼓動と共にドクッドクッと泉のように湧き出て来る。コンクリート床は血で赤く染まっていく。「救急車を呼んでくれー!」と僕はベニシアに叫んだ。あんなにケガしないよう慎重にハシゴに登って作業したのに、仕事をやり終えた後、片付け途中でのケガだった。救急病院で7針縫う治療を終えて、僕は帰宅した。 肉体的な痛みはもちろんあるが、僕はこのケガで精神的にかなり落ち込んだ。長期間の原稿書きからようやく解放されて、これから好きな登山を再開しようと思っていたところなのに。       * ケガの前日、僕は豚バラ肉を3キロ買ってきて、塩漬けにしてい 久々にベーコンをつくろうと思い立った。 でもその前に、薪ストーブの煙突掃除もやらなければ。つい先日、薪ストーブに興味ありの人が訪ねてきた。僕は失態を演じた。半月ほど前からストーブの煙の抜けができ上がったベーコンの味見は楽しい。ワイルドな燻煙の香りで、脂臭さが消えた。ベニシアは5歳の頃、バルセロナで暮らした。スペインを思い出してアレンジした花。

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