雑誌「チルチンびと」87号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて
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7成分の配合を変えて、各社からさまざまな商品がつくられている。「陽平さんが使っている漆喰の商品名は何ですか?」「ロハスウォールです」。僕はその名前にちょっとびっくりした。山本夫妻と会ってまだ、ほんの数時間しか話していないが、ロハス「lifestyles of health and sustainability」(健康で持続可能な生活様式)という言葉が、僕の頭の隅でチラチラしていたのだ。      二人の出会いは1999年、ネパールのポカラという大きな湖がある静かな町。陽平さんは大学時代に中国からヨーロッパへ旅行。チベットからネパールへ旅行中の大学生、真琴さんとポカラで出会った。帰国後、陽平さんは大学写真部の展覧会の案内を真琴さんに送り、それがきっかけで交際が始まった。新婚旅行は2週間、ラダックへ向かった。二人はチベット文化に興味があったのだが、1959年にチベットの指導者ダライ・ラマ14世は多くのチベット人とともにインドへ亡命していた。現在のチベットは中国に支配され、かつてのチベットの面影はない。それで、今もおおらかなチベット文化が受け継がれているインド北部のラダックを訪ねたのだ。「ここに住むようになった理由は、京都のチベットと言われる大原だから住みたくなったんですか?」とちょっとふざける僕。「そうかもしれません。いろいろと繋がっているのでしょうね」と陽平さんは笑った。 大原では蛙の声を聞いたり、田畑に植えられた稲や野菜の成長、蛍が飛ぶのが見えることなど、季節の細かな変化を肌で実感し、楽しんでいるそうだ。野菜なども、スーパーでただ商品を買ってくるのではなく、知った顔のお百姓さんがつくっているので安心だという。 さて、ぼちぼち帰ろうとしたら、「梶山さん! さっき、あとで僕と遊ぶって言ったやん!」と蓮君。「ゴメン、ゴメン。また来るから……」「今度はベニシアさんとか、みんなで来てね」「ありがとう!」いた。床や柱などが漆喰で汚れないよう、まずシートやテープで養生する。それから漆喰を下塗りし、それが乾いたら、その上から上塗りする。下塗り材と上塗り材は別で、上塗り材の方がきめが細かいそうだ。 陽平さんが準備している間、真琴さんは商品となる古家具の椅子のクッションと生地の張り替えの様子を見せてくれた。だいぶ前、真琴さんが北野天満宮の古道具屋さんに「私は古道具が好きなんです」と話したところ「じゃあ、自分でやってみたら?」と言われたことが店を始めるきっかけになったそうだ。店の名は「月日星〜♪」と囀る三さんこうちょう光鳥の鳴き声からもらったそうだ。 準備ができた陽平さんは慣れた手つきで、土壁の上に1〜2ミリほどの厚みで下塗り材を塗った。漆喰とは、消石灰に砂、海藻糊、スサを混合して水で練った塗壁材だ。かじやま・ただし/1959年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお客として知り合い、92年に結婚した。PROFILE蓮君は大原学院にある保育園「小野山わらんべ」に通っている。ツキヒホシは古刹、寂光院のすぐ近くだ。美しく磨かれた昔の日用品が並ぶツキヒホシ店内。モノや道具に対する真琴さんの愛情が感じられる。http://tsukihihoshi.blogspot.jp/

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