雑誌「チルチンびと」87号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて
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vol.25大原で暮らし始めたのは、チベットが原点?ているのか興味があり、見せて欲しいと頼んだのだ。ゆったり広い敷地に主屋と離れとお店の3軒がある。家の前を流れる沢には3メートルほどの滝が落ち、滝壺は泳げるぐらい深い。「初めてこの家を見に来たときは、沢の岸辺のモミジがちょうどオレンジと黄色に紅葉していました。その美しさに心が鷲摑みにされたんですよ」と真琴さん。夫婦ともども、この家に一目惚れした。家は立派ながっしりとしたつくりで大切に手入れされて、昔のままの状態に保たれている。もしも第二の人生を考えることがあるとしたら、ここでなら何かやっていけそうな気がしたそうだ。 家の中を見せてもらい、僕は明るいなあと感じた。日本の古民家はしっとりと落ち着いた雰囲気があるが、おおむね室内が暗い家が多い。最近の新しい家のように白い壁や天井にすれば、光が反射して明るくなるのは判っているが、果たして古民家にそれが合うだろうかと僕は思っていた。山本家の壁や天井は、白い漆喰が塗られている。明るくいい感じで、伝統的な家のつくりにすっかり馴染んでいた。「延べ2〜3カ月かけて、夫婦二人で漆喰を塗りました」と真琴さん。僕はびっくりした。「クロス壁は和風建築に合わないと思ったし、化学的な材料によるシックハウスも気になるので、漆喰を選びました」。 我が家では近頃「家の中が暗くて何も見えない」とベニシアが昼間から煌々と家中の電灯を灯している。壁や天井、戸など黒い木の建具が我が家には多い。電灯を点けなくても、外光をうまく取り入れて、明るい室内にするいい方法はないか僕は常々考えていたが、山本家のようにすればいいのだ。近々、手つかずの箇所に漆喰を塗ると聞いて、僕は見学させてもらう約束をした。 山本家に着くと「僕と遊びに来たの?」と5歳の蓮れん君が元気に迎えてくれた。「う〜ん、お父さんの壁塗りを見た後でね」。漆喰を練っている陽平さんと初対面の挨拶を交わし、壁塗りの段取りを聞 昨年の春頃、大原寂光院近くに「ツキヒホシ」という名の古道具屋さんができた。2014年9月に京都市街地から越してきた山本さんの奥さんの真ま琴ことさんが始めたそうだ。古道具好きのベニシアは、さっそく小皿を数枚買ってきた。「若い人が自分でつくった店みたい。あなたも散歩のついでに覗いてみたら?」とベニシアにすすめられた。ご主人の陽よう平へいさんは報道カメラマンで、森歩きが好きな人とも聞いたので、会ってみたくなった。 僕が山本家を訪ねたその日、陽平さんは留守だったが、築100年の家の室内を真琴さんが見せてくれた。僕は、大原に越してきた人がどのように古民家に手を加え上・中/商品になる古道具椅子のクッションと生地を張り替える真琴さんと見守る蓮君。 下/天井を高く変え、白い漆喰を塗り、とても明るくなったダイニング・キッチン。外壁に漆喰を塗る陽平さん。漆喰は防水性がある不燃素材で、日本では4000年も前から使われているそうだ。家の横の落合の滝は、寂光院に隠棲した建礼門院の歌にも登場する。

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