雑誌「チルチンびと」86号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて
4/4

15っぽくなっていた。年のせいだろうと僕は思っていたが、電磁波過敏症の症状に似ていることも気になる。 2週間ほど過ぎた9月15日に、電話会社の社員5名により基地局の説明会が公民館で開かれた。参加を期待していた地主である病院からは誰も来なかった。 「病院内の携帯電話の電波状況が悪いので良くなるようにして欲しいと、私たちは病院から依頼を受けました」と電話会社社員。これは、2週間前に聞いた病院職員の説明とまったく逆である。しかも、アンテナは病院に向けられるので、その反対側の井出町に恩恵はないという。僕たちは24時間基地局からの電磁波にさらされて、健康影響や被害リスクを受けるだけである。説明を続けようとする電話会社の話の途中で「私は反対です!」とベニシアが割って入った。それが口火となり質問や意見が飛び交った。 「携帯電話は健康にまったく問題ありません。国もそう言っているし、我々はすべて法律に定められた基準内で進めています」と電話会社は言い切った。2時間はあっという間に過ぎたが、説明に納得した人は一人もいなかったと思う。 現在、世界の人口は約73億人だが、携帯電話は世界で50億以上普及しているそうだ。目には見えないが、携帯電話の電波だけでも50億があちこち飛び交っているのだ。日本政府やマスコミはなぜか電磁波問題に関してあまり触れようとしないが、取り組んでいかなければならない環境問題のひとつではなかろうか。   携帯電話を直接耳に当てて長く話すと、耳が熱くなりヒリヒリしてくる経験はないだろうか。携帯電話の電波は電子レンジに使われているような高周波電磁波が使われている。かじやま・ただし/1959年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお客として知り合い、92年に結婚した。PROFILEつまり、耳が熱く感じられるのは、耳の奥が電子レンジで調理されているようなものだ。「携帯電話は危険なので、イヤホンやヘッドホンを使って脳から離して使うべき」とどうして販売するときに電話会社は教えてくれないのだろうか。基地局を通して、電磁波について少しは勉強する機会ができたことをポジティブに受け入れて、気に入った大原での生活を続けていきたいと思っている。はまだ柱が建っただけだが、それにアンテナが付いた後では基地局を撤去させることは難しくなるかもしれない。今のうちに住民が意志を表示しなければ、基地局が設置されて我々は泣き寝入りとなりかねない。説明会を電話会社が開くよう交渉すると町内会長は約束してくれた。 僕は基地局の存在を気にするようになって、改めて大原を歩いてみた。すると、知らないうちにあちこちに基地局ができていたことを知った。そういえば、1年ほど前からベニシアは「目が見えにくい。頭痛がする」とよく言うようになり、忘れ上:クリスマス用に飾り付け。下:雪から顔を出す水仙とビオラ。冬の間は、暖かな薪ストーブのそばで、読書をするのが楽しい。

元のページ 

page 4

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です