雑誌「チルチンびと」82号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
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13 「椎茸屋でも始めるんか?」。 このたくさんのほだ木は、仕事レベルの量であるとか。家族で食べるぐらいなら、ほだ木5本で充分だという。それなら、誰かにプレゼントしよう。 秋に切った原木は、3月まで寝かせて乾燥させた。生の木は菌の成長を阻害する物質を含んでいる。それで、すぐに種駒を植菌すると、椎茸の菌がほだ木に広がらないそうだ。 種駒は専用のドリル刃で原木に穴をあけて、金槌で打ち込んでおく。植え付けた種駒から椎茸菌がほだ木に広がるよう、横積みしたほだ木の上からワラ、その上にブルーシートをかけて、保湿状態を保ちつつ1カ月ほど庭に寝かせた。これを仮伏せというらしい。ほんとは、もっと長く仮伏せしておきたかった。ところが、庭がきれいになる春が来たので「ほだ木をどこかに移動して!」とベニシア。 仮伏せのあとには本伏せの行程があるようだが、置き場がないので、そのまま庭のまわりに適当にほだ木を並べておくことにした。近所の人や友人にもプレゼントして、我が家のほだ木を10本ほどに減らした。 翌年の春、ほだ木をプレゼントした前田さんが「こんなにたくさんできましたよ!」と言って、ほだ木にできた椎茸の写真を見せてくれた。それを見て僕はびっくりしたばかりでなく、焦りも出てきた。僕のほだ木からは、まったく椎茸の気配がないからだ。前田さんの旦那さんは、愛情をこめてほだ木によく散水するそうだ。 同じくプレゼントしたノリちゃんかじやま・ただし/1959年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお客として知り合い、92年に結婚した。PROFILEは「なんか雑菌が入ったのか、変なキノコが出てきたので、数本捨てました」。これにもショック。悲しい。 夏が過ぎて、秋がきた。僕の椎茸はどうなるのだろうか? 雨が数日続いた後、何気なく庭に出てみると椎茸のようなものが見える。ほだ木に近づいてみると、濃い茶色の肉厚の椎茸がいくつも出ているではないか……感動! その日から、プリプリの椎茸を口にする日々が始まった。右:見事に育った椎茸を裏庭に置いた、ほだ木から収穫する。 左:椎茸菌たっぷりの種駒を埋める前に、原木を4カ月間寝かせた。薪ストーブで、チーズと和えた具と椎茸を焼いたワインのおつまみ。

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