雑誌「チルチンびと」82号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
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12 冬のあいだ毎日燃やす薪ストーブの燃料をどうやって手に入れるか、秋になると毎年のように悩んでいる。もちろん、市販品の薪を買うなら悩むことはない。でも、手づくりの暮らしにできるだけこだわりたいと考えている僕にとって、薪を自分でつくることもこだわりの一つ。僕の友人、後藤君は山仕事をやっている。いいタイミングで彼に雑木林伐採の仕事が入れば、僕は丸太のお裾分けをもらうことができるのだが……。 秋が深まった3年前のある日のこと。後藤君から電話をもらった。丸太が手に入りそうだ。さっそく僕はチェーンソーと手押し一輪車を車に積みこみ、比良山地の山麓にある伐採現場へ、丸太をもらいに行った。僕が車に丸太を運んでいると、一仕事終えた後藤君がやって来た。 「これで椎茸をつくればいい。クヌギやナラとアベマキの木だから、椎茸がよくできるよ」と後藤君。 「でも、俺そんなことやったことないし、難しいんじゃないの?」と僕。 「かんたん、かんたん。椎茸菌が入った種たねこま駒を買ってきて、それを原木に植えるだけや。肉厚でプリプリのうまい椎茸が食えるぞー」。 自分で椎茸がつくれるなんて、試してみたい。その足で僕はホームセンターの園芸コーナーに寄り、種駒の小箱とつくり方の説明書を手に入れた。 大昔の日本では、椎茸栽培は不可能とされ、山野に自生したものを収穫していた。原木に傷を付けて天然の椎茸の胞子が付着するのを待つ、ナタ目法という半栽培が江戸時代中頃から行われ始める。現在では原木栽培と菌きんしょう床栽培の2種類が椎茸栽培の主流だそうだ。それぞれの栽培法について、簡単に説明してみよう。 菌床栽培とはオガクズに米ぬかなどの栄養材を混合、整形して固めた菌床に椎茸菌を入れて栽培する方法。空調管理された施設内で10〜12週間という短期間に大量生産できるので、市販されている椎茸のほとんどが菌床栽培でつくられているそうだ。 原木栽培とは、伐採して枯れた天然の原木に、直接椎茸菌を埋めて椎茸を栽培する野生に近い方法。原木を伐採し椎茸菌を埋めてから、椎茸が収穫できるまで1年半から2年間待たねばならない。また、原木となる木が育つには10〜30年間もかかるし、現に原木は不足している。原木栽培だと時間はかかるが、うまい椎茸が食べられるという。 僕がやろうとするのは原木栽培だ。まず、ほだ木づくりの準備である。冬の薪用の丸太を除いて、直径15センチぐらいのほだ木用の原木を1メートルの長さに切り分けると80本ほどもできた。それを庭に運んでいると近所のおじいさんが楽しげな顔でやって来た。 「何やってるんや?」。 「椎茸をつくろうと思って……」。椎茸栽培の方法ほだ木をつくり、椎茸を待つvol.20椎茸栽培に挑戦する右:原木に種駒を埋めるため、ドリルで穴をあける。 中:約1カ月間の仮伏せ。 上:開けた穴に、椎茸菌たっぷりの種駒を埋める。

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