雑誌「チルチンびと」80号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
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13 これまでベニシアが自分で貼ったタイルのほとんどは、白地に紺と青と黄色の模様が描かれたメキシカンタイルだ。タイル仕入れのために、橋本さんがこれまで繋がっている業者から捜していくと、扱っている商品のほとんどが現代の日本製タイルだった。メキシカンタイルは、素朴で暖かな、やさしい芸術的雰囲気を持っている。日本製タイルはカチッと正確だが、どこか冷たくてラテン系文化が持つ大らかさに欠けるように橋本さんは感じたのではないだろうか。メキシコは1521年から300年間スペインの植民地で、タイルづくりの技術はおそらくスペインから伝わった。ベニシアが幼少時代に記憶した、ガウディの建築にも繋がるところがあるのかもしれない。 ちょっと時間がかかったが、橋本さんはメキシカンタイルを仕入れた。そして、タイルを貼る日がやって来た。タイル貼り職人は通常独自に作業をするはずだが、工務店ボスの橋本さんも手伝いにやって来た。職人さんは、インテリアにちょっとうるさそうな外人さんが住む家の仕事に不安だったのかもしれない。エキゾチックな絵柄のタイルでどう仕上げるか、職人さんは橋本さんとアレコレ話しながら配置を決めていく。僕がときどき現場を覗きに行くと、二人とも楽しんでいる。いつも慣れている無地のタイルばかりの仕事と違い、絵柄入りはプロの職人さんにとっても日常の仕事から逸脱するものがあったのかもしれない。こうして、明るく楽しいキッチンができ上がった。 かじやま・ただし/1959年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお客として知り合い、92年に結婚した。PROFILE明るいキッチンで、スグリのジャムをつくるベニシア。古い日本家屋は窓が少なく暗い家が多いが、ちょっとした工夫で明るくなる。まず接着剤を塗って貼り付けて、目地にセメントを詰めた後、濡れたスポンジで余分なセメントを拭き取ったらタイル貼りは完成だ。

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