雑誌「チルチンびと」74号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
3/4

炎が心とお腹を満たしてくれる  小学校1年生の頃に僕はマッチで 火を点けることを覚えた。おそらく 誰もがそうだと思う。火を見るとド キドキと興奮したものだ。  ある日、自分でロウソクを灯して みたいと思った。台風で停電すると きに灯す、ロウソクの炎にワクワク していたからだ。母親に見つからな いように、あまり使われていない部 屋に忍び込み、足踏みミシン台の上 にロウソクを立てようと思った。炎 を灯すことはできたが、細く不安定 なロウソクはすぐに倒れてしまった。 倒れないようにロウを垂らして立て ることをまだ知らなかったのだ。  しばらくして、ミシン台の上に置 かれていた綿入り袢纏の辺りから、 かすかに煙が出ていることに気がつ いた。僕はあわてて水を汲みに洗面 所へと焦った。ところが、モクモク と煙は収まらない。そのうち、異変 に気づいた母親が、あっという間に 火を消してしまった。  中学生のある時、原始人のような 洞窟生活を体験してみたいと思った。 インスタントラーメンと鍋を家から 持ち出して、近くの森の防空壕の中 で火を焚いてラーメンをつくってみ ようとがんばった。ところが、小枝 や落ち葉の煙に燻されてしまい、洞 窟生活の苦労の一端を経験させられ ることになった。 灯油コンロの思い出  そんな、ばかなことを続けている うちに、僕は高校生になった。本格 的に登山をやってみたかったので、 入学後すぐに山岳部に入部した。そ こで最初に教えてもらったことは、 スベアというスウェーデン製灯油コ ンロに火を点けて、コーヒーを沸か すことであった。スベアを正しく作 動させるには、ちょっとしたコツが 必要だ。うまく燃えれば「ゴーッ!」 と気持ちいい音が 響く。しかし、失 敗すれば灯油が吹 き出すか、生ガス に火が着いて大き な炎が燃え上がる。 だんだん僕はスベ アを使いこなせるようになり、山で おいしいご飯を炊けるぐらいに成長 した。   23歳のときインドを旅行した。現地の人々はスベアに似たインド製灯油コンロを日常生 活で使っていた。 僕は久しぶりに灯油コンロの勇まし い音を聞いて、それを買うことにす る。日本食に飢えていたので、灯油 コンロを手に入れたばかりの頃は、 当然日本食ばかりをつくった。その うち、スパイスを使うことに興味を 覚えた僕は、店の人に聞きながらス パイスを買いそろえていった。露店 でカレーをつくる食堂の料理人の手 元を眺めたり、料理本を買って自分 でつくって試すうちに、ゆっくりと 少しずつだがカレーづく りを、旅を続けながら覚え ていった。僕はインド料 理店を京都でやっているが、 そのときの経験が役に立 ったと思っている。  さて、昔の話はここまで にして、我が家の薪ストーブについ て一言。今使っている薪ストーブは、 10年ほど前に見つけたものである。 小さいものは薪が あまり入らないし 大きいと重い。移 動する必要がある ときに一人でも運 べる重さというこ とで、中型サイズを選んだ。煙突を 通すために家の壁に穴を開けたり、 ストーブ周辺の床や壁を断熱防火素 材に変えるなど、素人の自分たち家 族だけで設置するのに3日間ほどか かっただろうか。  我が家では11月から4月初旬頃ま で、毎日ストーブに火を入れている。 部屋を暖めることに関して言えば、 今のストーブに満足している。とこ ろが、調理に使うとなればどうも今 の機種ではやりにくい。炉室が狭く、 バッフル(燃焼効率を良くする板)が炉室の上部に 付いているので、ストーブトップが あまり熱くならないのだ、そのうち、 新たにストーブを手に入れる機会が あるなら、シチューを長時間コトコ ト煮たり、クッキングスタンドを炉 室の中に入れてフライパンや網で焼 く料理ができるような、調理に特化 したタイプがいいと思っている。

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る