雑誌「チルチンびと」72号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
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P12  いま暮らしている家に最初に出会 ったのは16年前。家の購入手続きな どを始めるまでの間、僕たち夫婦は 家を眺めに何度か大原を訪れた。そ の家をとても気に入った。とはいえ、 かなり古い。最も心配なのは屋根で ある。はたして数十年後も、僕たち 夫婦がここに住んでいられるほど屋 根は保つのだろうか。 「屋根が波打って いるように見える けど、大丈夫なん ですか?」  ご近所さんから 僕の不安を煽るよ うな言葉もいただ いた。そこで瓦葺 き職人の友人に相 談してみた。 「けっこう古いな らば、ほとんどの家の屋根が真っ直 ぐではなく、波打っているもんだよ」  雨漏りしているようなところが数 カ所あったが、売り主は修理して明 け渡すと言う。売り主や近所のお年 寄りに、この家の年数を尋ねると「お そらく80年ぐらいかなあ。よくわか らないなあ」ということであった。  なんとか家を購入して住み始めて 判ったが、4カ所ほど雨漏りが続い ていた。僕は屋根に上って瓦のズレ を修正し、瓦と瓦を引っ付ける接着 剤などを使って簡略な修理を試みる。 しばらくの間は雨漏りが止まるのだ が……。年に数回、山から野生猿た ちがやって来て近所の畑を食い荒ら す。それから我が家の屋根にも登っ て満足そうに収穫物を食べるのだ。 猿たちは屋根の上を走り回るので瓦 はズレてしまう。その度に僕は瓦の 修理に追われていた。  また、冬が近づくと天井裏にイタ チが住み着いた。それで僕は、罠付 き檻を手に入れて奴らを捕獲しよう とする。なんとか臭いイタチを捕ら えると、車 に積んで離 れた山中に 放しに行っ た。ところ が毎年のよ うに同じこ とが繰り返 されるので ある。まさ にこれはイ タチごっこ であった。 隣の屋根の上で、畑からの収 穫物を頬張る野生の猿たち。 /我が家の天井裏に住み着い ていたイタチ。 右上から時計回りに /古い瓦を外した屋根に、 新しい野地板と防水紙を張る。その上に桟木を付 けて、瓦を載せて固定するといった流れだ。 / 軒先に取り付ける広小舞を持って屋根に立つ和典 さん。橋本さんの長男である。 /昔は土葺きだ ったが、25 年ほど前から徐々に桟葺きとなり、現 在は90%以上が桟葺きに代わったそうだ。 /約 100 年の間、家を守ってくれた瓦に、感謝の気持 ちをこめて別れを告げた。

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