雑誌「チルチンびと」70号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
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17 こ大原では、チェーンソーや薪スト ーブに対する警戒の声は聞かれない。 ナラ枯れは人災  薪ストーブを使うために最も大切 な仕事は、まず薪を確保することだ ろう。商品になった薪が売られては いるが、自分の力で木を集めて薪を 割ることに僕はこだわりたい。薪と なる木と関わり、その木が育つ森を 見るうちに、自然や環境についてち ょっと考える機会を得ることもある。  今年の5月、近くで山仕事をやっ ている後藤君から電話を貰った。 「ナラ枯れしたミズナラを伐採する けど、薪にしたいなら取りに来ませ んか?」と。今、京都近郊の山の森 では、ミズナラ、コナラ、カシ、シ イなどのブナ科の樹木が、ナラ枯れ という病気にやられて大量に枯死し ている。そんな病気の木を薪にして もいいのだろうかと思ったので調べ てみた。  ナラ枯れとは、ラファエレア菌と いうカビの一種によって起きる枯死 である。まず、カシノナガキクイム シという体長5ミリほどの甲虫が、 ナラ科の樹木の幹の内部に坑道を掘 り進める。やって来るカシノナガキ クイムシの数は大量なので、坑道の 数も当然多い。カシノナガキクイム シの幼虫はラファエレア菌を食べて 生きるので、成虫の雌は坑道内にラ ファエレア菌を運び込み繁殖させる。 ラファエレア菌が繁殖した樹木は水 を吸い上げることが困難になり、2 カ月ほどで枯死してしまうという。  1960年頃までの里山の森は、 薪や炭、椎茸のほだ木などの採取地 であり、森はよく手入れされていた。 ところが、その後の燃料革命で里山 の森は放置されるようになり樹木は 高齢化して、カシノナガキクイムシ が繁殖しやすい環境に変わっていっ た。今日では、高齢化した木を切っ て森の手入れをすることにより、森 は活性化、若年化するので、ナラ枯 れを防ぐことにつながると言われて いる。  ナラ枯れ現象は1年で4キロペー スの速度で広がりつつある。ナラ枯 れした木を、伝染範囲外に持ち出す とナラ枯れを広める恐れがあるそう だが、範囲内なので僕は貰うことに した。こうしてハイエースにミズナ ラを6回満載させて、今年1年分の 薪を調達することができた。 かじやま・ただし 1959 年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主 なテーマに撮影している。登山ガイドブックほか共著多数。84 年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すためにインドを放浪 し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」 を京都で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・ス ミスさんとはレストランのお客として知り合い、92 年に結婚した。 左/初代の中国製ダルマストーブ。今は 玄関のデコレーションの役に。 左上/ 二代目は台湾製。写真スタジオ兼作業場 の土間に設置している。左上の英国製物 干しは、天井から吊って、いつでも高さ を自在に調整できるすぐれもの。 右上 /現在、ダイニング・キッチンで使って いる三代目の薪ストーブも中国製だ。

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