chilchinbito library 「京都大原の山里に暮らし始めて」梶山正
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13 環境に負荷のない 暮らしを求めて  僕たち家族は住み良い暮らしを願 いながらも、まずは、環境のことも 考えなければと、ちょっとがんばっ て毎日の生活を送っていた。  そのいくつかの例をあげてみる と、とにかく、こまめに電灯を消す こと。我が家は部屋が 13 もあるのだ。 暖房は薪ストーブを使い、灯油や電 気をなるべく使わない。ここは下水 設備がなく、生活排水が川に流れ出 すので、合成洗剤を使わず、環境に よりやさしい石けんを使う。庭の植 物たちには、溜めた雨水をやる。ま た、台所から出る野菜屑、残飯と枯 れ葉や雑草を醗酵させてコンポスト をつくり、植物の栄養にしている。 土壌の微生物を育てず、固い土壌と 自立できない植物をつくってしまう 化学肥料は使わない。また、世界的 に減少している蜜蜂の危機を知り、 蜜蜂が増えることを願って、彼らが 好む植物を庭に植える。蜜蜂は植物 の受粉のために、なくてはならない 重要な働き手だから。  こんな小さなことの積み重ねが、 きっと地球のために必要だろうなと 思いつつ……。  そんな些細な気遣いをぶっとばし て、福島第一原発では、原子炉3基 のメルトダウンと2基の水素爆発と いう、原発史上最悪の事故を起こし てしまった。日本はアメリカ、フラ ンスに次ぐ、世界で3番目にたくさ んの原発を持つ国だ。アメリカの原 発の多くは地震のない東海岸にあ り、フランスは、あまり地震がない。 日本は世界有数の地震多発地帯であ る。そんな地震の国に原発が 54 基も ある。特に危ないと言われているの が、現在、停止指示がかかっている 浜岡原発だ。これから 30 年以内に、 マグニチュード8程度の東海地震が 発生する可能性は、 87 %と言われて いる。   原子力発電は、放射性物質という 猛毒廃棄物が残される。これから何 万年、何十万年と危険な放射線を出 し続ける、その廃棄物処理の方法を 今の人類は知らない。処理できない 猛毒を後世に残していいわけがな い。また、人類だけでなく、あらゆ る生物と地球環境全体のことを考え ていくと、原子力発電は危険が大き 過ぎる。即刻止めて欲しいと思って いる。 右上/園芸の盛んなイギ リスから来たベニシアは、 コンフリーというハーブを 使って良質な有機肥料を つくる。 左上/コンポス トをつくる木箱に、コンフ リーを入れる。 中/で きあがった栄養豊かな土。 下/コンフリーを水に浸け て液肥をつくる。 右上から時計回りに/花がきれいなメドウセージが秋の庭を彩る。 /チェリーセージ の上で獲物を待つカマキリ。 /防虫や防腐効果が高いタンジーは、独特な香りを持つ。 /秋のあいだ、長く花を楽しませてくれるシュウメイギクは、キク科でなくキンポウゲ の仲間だ。 かじやま・ただし 1959 年長崎県生まれ。写真家。山岳写真など、自然の風景を主なテーマに撮影している。 登山ガイドブックほか共著多数。84 年のヒマラヤ登山の後、自分の生き方を探すため にインドを放浪し、帰国後まもなく、本格的なインド料理レストラン「DiDi」を京都 で始める。妻でハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんとはレストランのお 客として知り合い、92 年に結婚した。

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