雑誌「チルチンびと」68号掲載 京都大原の山里に暮らし始めて 梶山正
4/4

庭の片隅に転がっていた石を 縁側へ移動させて、沓脱ぎ石 に使う。英国の大学から夏休 みで戻って来た主慈(しゅうじ) が手伝ってくれた。まだ小さ いけど、悠仁も頑張った。  /庭の排水をよくするため、 穴をたくさん開けた塩ビ製パ イプを埋めるベニシア。穴か ら土が入り込まないように、 まず石で囲って、それから土 を被せる。 1996年6月に引っ 越して来た翌朝、縁 側で遊ぶ悠仁。庭の 植木や雑草は伸び放 題。長い間、手入れ されていない様子で あった。 かじやま・ただし 1959年 長崎県生まれ。写真家。山岳 写真など、自然の風景を主な テーマに撮影している。登山 ガイドブックほか共著多数。 84年のヒマラヤ登山の後、自 分の生き方を探すためにイン ドを放浪し、帰国後まもなく、 本格的なインド料理レストラ ン「DiDi」を京都で始める。 妻でハーブ研究家のベニシア・ スタンリー・スミスさんとは レストランのお客として知り 合い、92年に結婚した。 庭に咲くオミナエシ。秋の七草の一つである。 園の部分はあまり変えて欲しくない なあ」と僕。   湿気が多い山裾にある家なので、 庭は青々とした苔に被われていた。 雨が降ると、家の屋根に降った雨水 は、雨樋を伝って庭に流れ込んだ。 庭には排水路がなかったので、雨が 降ると池のように水が溜まった。 「これから私は、ハーブとガーデニングを趣味にします」とベニシアは 張り切っていた。一方、僕は家のこ となんか早く終わらせて、趣味の登 山を再開したいと思っていた。それ なのに、次は庭の排水工事をしなけ ればいけない。   庭のモミジが赤く色づき始めた。 ホームセンターで塩ビ製パイプと枡、 それにセメントと砂を買って来た。 塩ビ製パイプを埋める溝を掘り、雨 樋からの水を流す排水路をつくった。 また、庭の水はけがよくなるように、 1センチぐらいの穴をたくさん開け た塩ビ製パイプをあちこちに埋めた。 パイプの先は、石垣の石の継ぎ目に 出した。こうしてでき上がった排水 路の成果は絶大であった。以前のよ うに、庭が池や沼のようになること はもうなかった。嬉しい。   冬が過ぎ、庭の梅の花がみごとに 咲いた日の夕方のこと。 「買っておいた芝生を全部植えたよ。 でもけっこう疲れたから、ご飯づく りを手伝ってね」とベニシア。 「わかったよ」   僕はさっそくキャベツを冷蔵庫か ら取り出して、コールスローをつく ろうとした。ところが、昨日、刺身 が切れるぐらい包丁をシャープに研 いでいたのに、 「あれ!   おかしい、なんで?   ベ ニシア、全然切れない。この包丁で なんか変な物を切ったやろう?」   彼女はとぼけた顔をしている。 「もしかしたら、この包丁で芝生を   切ったんとちゃう?」 「そんなに怒らんといて!」   研ぎたての包丁で芝生を切るなん て……。ガーデン大国イギリスから 来た人のガーデニング技術は、まったく、すごすぎると思うのであった。 13

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る