雑誌「チルチンびと」 脱原発のために私たちができること「ドイツ、スイスに学ぶ脱原発都市の実践」
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196 上から順に/ 二つと同じ形のない5 棟のエコハウス。 /狭い敷地ながら ゆったり確保した庭のスペース。/隣 家の視線が気にならない場所に設置さ れた大窓。 /右:多孔質のスイス製 特殊レンガ。断熱効果が見込める。左: 漆喰の原料となる地元産の石灰岩。 能も果たしている。  この住まいの大きな特徴の一つは、各棟 の内部が完全に2所帯に分かれているとい う点だ。  集合住宅と個別住宅の中間で、両方の利 点を追求しており、5棟の戸建住宅に見え る建物には、実際には 10 所帯が入居してい る。玄関やポーチ、庭、ガレージなどもす べて二つずつに分かれているが、それらは 横並びではなく、いわばアシンメトリーに 配置されている。5棟すべてにおいて同一 の配置というものはない。  また、この住居は低エネルギーハウスと しての機能や環境保護に配慮した工夫がな されている。多角形を生かし、互いに隣人 の視線を気にしない位置に冬季の太陽熱を ふんだんに取り入れるための大窓を各部屋 に2カ所以上設置している。息子さんが施 工にかかわったという南側の1区画にお住 まいのハイニー・クルトさんによると1棟 に2所帯が住まう利点は複数あるようだ。 「まず土地の有効利用ができること。狭い 敷地でも家同士の間隔を省くことで緑地や 庭のスペースを広く残せる。それに、両所 帯を隔てる壁を共有することで寒気に触れ る面を減らし、暖房効果も上げられるから ね」と、施工当時の写真を交えて説明して くれた。  さらには地下にあるシェルターや温水タ ンク、水活性化システム、ガス供給などの 機器を両所帯で共有し、省エネと省スペー スを実現。ガスを熱源とする温水を給湯と 床暖房用に使用している。  地下室は主にコンクリート造で、地上階 は国産の特殊レンガを積み、その上にこの 土地の石灰岩を原料とする漆喰を厚く塗っ て仕上げている。  特殊レンガは気孔が通っており、施工後 も気孔をふさがないよう配慮することで 「呼吸する壁」として住む人にやさしく、 厚みが 28 センチもあるため、四季を通して 断熱効果を上げることができる。夏場で日 差しが強く外気が 29 ℃であっても、室内は 洞窟の中のようにひんやりと涼しく 20 ℃前 後に保たれている。  屋根の下には断熱材が二重に入り、真夏 でも屋根裏部屋が高温になることはない。 さらに窓は縦横に開閉ができる気密性の高 い2重ガラスで真冬の寒気も完全に遮断す ることができるため、床暖房だけで十分な 暖かさを得ることができる。   20 年間のアメリカでの生活を経て、この 家に引っ越してきたドイツ人のジークヴァ ルト・エルザスさんは「この家を終の棲家 に選んだのは、まずは立地、頑丈な家のつ くり、そして窓の大きさとそこからの眺め が素晴らしいから。アメリカの家と比べる と小さく庭も狭いけど、コミュニティガー デンで楽しむことができるから、とても満 足している」と語ってくれた。

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