雑誌「チルチンびと」 脱原発のために私たちができること「ポスト3・11時代の住まいの暮らしとエネルギーの関係」
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187 現をめざす上で、「電力消費が制限される 時代」にも快適な住まいと暮らしをどのよ うに考えていけばよいでしょうか。  筆者は、原子力発電により「電力を自由 に使える時代」のエネルギーを消費する設 備機器を前提とした快適性の目標とその達 成手段について、一度分解し、「電力の消 費量が制限される時代」における快適性の あり方と手段を段階的に再構築していくこ とが必要だと考えます。  もちろん、住み手の健康状態や天候、地 域環境の状況などによって、求められる目 標水準や手段は異なるでしょう。 Ⅰ.めざす快適性の段階的な目標の設定  暖冷房を例に考えてみましょう。暖房 は、涼しい季節から寒い季節にかけて家中 を常に暖かい状態にすることではなく、体 が過度な寒さや過度な温度差を感じさせな いようにすることが最も重要な目標となり ます。  同様に冷房は、暖かくなった季節から夏 にかけて、家中を常に涼しい状態にするこ とではなく、過度な暑さで健康を害するこ とがないようにすることが、最も重要な目 標となります。  次に、冬の寒さや夏の暑さを排除するの ではなく、単なる「室温」だけでないより 幅広い観点から感じられる快適さをめざ し、暮らしに取り入れ楽しむ工夫が望まれ ます。  たとえば、冬のストーブの炎や薪のはぜ る音、夏の風鈴の音や小鳥の鳴き声、簾越 しに眺める庭、季節の食べ物などを楽しむ ことです。  その上で、どうしてもしのげない暑さや 寒さに対して、必要な設備機器を適切に設 置し効果的かつ効率的に改善できるように します。 Ⅱ.目標達成の手段の重ね合わせ  私たちが暮らしの中で求める快適さを、 段階的に実現するための手法を重ねていき ます。  冬の寒さをしのぐために、住宅にしっか りとした断熱性能を確保し、日中には太陽 の熱をしっかりと取り入れ、冷え込む夜間 には暖房の熱とともに外気に逃げないよう にします。  夏の暑さをしのぐために、日中太陽の熱 を極力室内に取り込まないようにすること と、室内の風通しをよくします。これらは 電力などを消費せずに実現することができ ます。  季節を楽しむためには、住宅のまわりの 環境を整え、それを室内からでも楽しめる ような設えが必要になります。  季節毎に花を咲かせ香りを漂わせる植栽 風鈴の音を耳にすることで、風を感じる。(小誌49 号 より、写真/木内 海) すべてを冷蔵庫に放り込んで保管するの ではなく、食材に応じて風通しのよい保 存スペースで保管する。(小誌63 号よ り、設計/神家昭雄 写真/野寺治孝) その季節毎に庭に訪れる野鳥の声を楽しむ ことで、室内を涼しくするだけでは得ら れない心地よさを得る。(小誌51 号より、 井筒明夫邸 写真/検見崎まこと) 簾やよしずは、日よけになるとともに、簾越しに明るい外部 空間を眺めることで、逆に室内の日陰を認識し、涼しさを感 じる。(小誌58 号より、設計/連合設計社市谷建築事務所 施工/ Designers Factory KISETSU 写真/垂見孔士) 薪ストーブは、それが発する熱だけでなく、 炎の揺らぎや薪がはぜる音でも温かさを感じ させる。(小誌70 号より 写真/相原 功) 暮らしを楽しみながら節電する工夫  

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