雑誌「チルチンびと」 パッシブでアクティブな暮らし
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原子力発電所事故が 提起した課題  これまで電力は災害時に強いとされ、一時 的に電力供給が停止しても、他のエネルギー に比べ復旧が早いと言われてきました。しか し今回の原子力発電所の事故では、発電シス テムの安全性、発電所が立地する地域の安全 性、電力供給が制限された時の安全性のいず れもが覆されてしまいました。  まずは、発電システムの安全性です。今回 の原子力発電所の事故では、何重にも備え られた安全システムが稼働せず、発電が停止 しただけでなく原子炉が破損し放射性物質 が放出されるに至りました。そのため発電所 作業員・事故処理作業員が現在も被曝し続 けており、また発電機能は回復不能となって しまいました。  続いて発電所が立地する地域の安全性で す。広範囲にわたり放射性物質が飛散し、 発電所周辺地域での生活の維持が困難になっ たばかりでなく、農業・畜産・漁業等多方 面に被害が拡大し続けています。また広い範 囲で市民が被曝あるいは被曝の可能性に不 安を感じ、現時点でも収束の見通しは立って いません。  3番目に電力供給が制限された時の安全 性です。大規模発電所の発電停止にともな う電力供給力の低下により計画停電が実施 され、住宅や民間施設だけでなく交通機関 や病院、公共施設を含む地域単位で電力供 給が一時的に停止しました。交通事故が発生 したり、継続的に電力が必要な工場が操業 を停止するなどの被害・損害も発生し、市 民生活に大きな影響を与えました。さらに 今後、定期点検などにより順次停止する原 子力発電所の再稼働については条件が厳し くなり、特に電力需要のピーク時に供給が ひっ迫する状況が続くと予想されます。  筆者は、このような事態を受け、今後の 電力供給について以下のような対策に取り組 んでいく必要があると考えています。 ・大規模な電力の発送電システムの再編  短期的には原子力発電所停止分を天然ガ ス等の火力発電の比率を高め補う。ただし CO2排出量が増加してしまうので、電力消 費全体を削減しつつ、中長期的には再生可能 エネルギーによる発電量を増加させることが 必要。そのためには以下の・や・における発 電との連携と、電力の需給をバランスさせる システムの実現が不可欠。原子力発電を再稼 働・継続させるならば、厳しい安全対策が前 提。 ・地域規模の電源の開発とネットワーク化  非常時に地域単位で最低限の電力を確保 する必要がある。またあわせて広く薄く存在 する再生可能エネルギーをより多く活用する ため、太陽光発電・風力発電・バイオマス発 電・小水力発電など、地域の中で小規模な 分散型電源を開発し大規模な電力網と連携 させていく。 ・家庭部門における省エネと再生可能エネ ルギー利用の徹底  我が国の電力消費の3割を占める家庭部 門では電力消費量の削減、特に夏期および 冬期のピークにおける消費量を削減すること が重要。また自然エネルギー・再生可能エネ ルギーの最大限の活用、自家発電電力の導 入等が求められる。またその結果として電力 の送電ロスの削減が期待される。 家庭における電力消費の 傾向と対策の方向性  それでは、我が国の家庭における電力消 費はどのような状況にあるのでしょうか。年 間の世帯当たりエネルギー消費量について、 1990年からの推移を電力に着目してみ ると、次のことがわかります(図1~3)。 ●世帯当たりのエネルギー消費全体では、 1990年以降増加傾向であったが、2 006年からは減少に転じた。これは近年の 家電機器等の効率の飛躍的な向上によると 考えられる(図1)。 ●電力消費については1990年にくらべ 2000年は23%増加し、家庭のエネルギー 消費全体に占める割合も40%から50%に高 まっている(図1)。動力・照明ほかによる 電力消費が20%増加していることに加え、暖 房が灯油ストーブなどからエアコンに切り替 わっていることやオール電化住宅が普及して はじめに   3月11日に発生した東日本大震災から、はや6ヶ月が過ぎました。被災された皆さまには、 謹んでお見舞い申し上げるとともに、一日も早く穏やかな、また笑顔の日常を取り戻されるこ とを、心よりお祈り申し上げます。  東日本大震災では、地震と津波による広範で甚大な被害が生じました。個人の生活、地域 産業、地域社会、それらの器である住宅や施設、街、地域環境……あらゆるものを同時に、スピー ディに再構築していくことが求められています。さらに今回の震災では、もう一つ大きな課題 が突き付けられました。原子力発電所の事故を発端とした電力需給の在り方に関する問題です。  本稿では、電力をはじめとするエネルギーと住まい・暮らしの在り方を「安全・安心」の視 点から考察しながら「パッシブ住宅」の意義を考えます。         (三井所清史) パッシブで アクティブな暮らし 3. 11 以後のパッシブ・デザインの役割と手法 文・三井所清史

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