
忙しいのは、夏の終りから秋。それが、12月まで続いて、1月に入ると、もう、春に向けての準備を始めます。この仕事、私に向いていたと思いますね。自分の手もとのちいさいところで、一つのものが完成していくって、すごく感動的なんですよ。以前、つくっていたお洋服よりも帽子のほうが、この角度、このラインと、自分がこだわってつくっていくところを、よりお客さんに感じていただけるのが見えるんですね。なんか、相性がよかったんですよ、帽子と私は。
私、つくる前は、つくることにもかぶることにも興味はあったんですが、きっかけがなくて、実はぜんぜん、帽子かぶっていなくて、つくるんだったらかぶらなくちゃ、と思った。そうすると、かぶりなれていないところから始めているので、お客さまの気持ちがよくわかるんですね。よくいわれる、かぶるだけで恥しい、という感覚が、すごくわかりました。目立ちすぎるんじゃないかとか、いうキモチが・・・私、いまよくかぶるのは、ベレーですかね。初めは、ハンチングとか、ちょっとツバのあるもので、ちょっと顔を隠していましたよ。
で、そんなふうに、お客さまからも、いろんな話を聞いて、帽子をつくってきた。ウーン。以前は、若かったからなのか、つくり始めだったからなのか、なんかこう、自己主張じゃないけど、ホラホラ、チョット見て、カッコイイデショ! コレ、私ノツクッタ帽子、ドーゾ! みたいな。それが、誰かがかぶって、はじめて完成するというカンジになってきた。まあ、初めは、型にするのに必死、かぶれるようにするのが、先、でしたからね。
帽子をつくる段階で、型出しをし、仮縫いしていくわけですけど、お客さまと鏡を見ながら、ここはこうしましょ、とか、さぐっていく。これが、いちばん醍醐味ですね。そうすると自然とお客さまと近づいて、あッと、一致する瞬間があるんですよ。・・・私、自分の引き出しをあけ、お客さまの引き出しも、ちょっといいですか、と見せていただく・・・それ、楽しいです。

オーダーを受ける場合、まず、私、用途を訊くんです。オシャレでかぶりたいのか、日よけでかぶりたいのか・・・それで、じゃ、こういう形はどうですか、こういう形はどうですか、と。そして、型出ししてみます、といって、二週間ほど待ってもらうことに・・・。
私、用途は、固めてきてほしいんですけど、写真とか絵とかは、一切、持ってこないでください、というんです。お客さまのイメージが固まっちゃうのが、イヤなんですね。こういうもので、こういうもので、っていわれるのが。それだったら、私がつくらなくてもいいのですから。
で、いくつか選んで、提案します。お客さまと話していると、イメージしているものがわかるので、それを一つ。もう一つは、それとは違って、私が、いらしてくださったお客さまに似合うであろうと思っているものを出します。あとは、おもしろがってもらえそうなもの。私、帽子のつくり手としては、まだまだなので、勉強しながらお金をいただくのだと思うと、やりすぎじゃないか、といわれますけど、これでいい。
それと、ちょっと気に入って買って、すぐかぶらなくなる、ということはよくあるでしょうけど、それじゃあ、せっかくつくった帽子は、可哀想。お客さまにも申しわけないし、つくった私も、可哀想。なので、やれることはやるように、しています。
で、そのあとまた、その人に合うように、高さを変えたり、角度を変えたりしますね。それから、布選び。まあ、打ち合わせのときに、布の相談もしているので、布屋さんに探しに行って、なんとなく、あの人には何が似合うかな、これが好きかなあ、と探します。自分の頭の中で布のイメージを固めちゃっても、そういう布が見つからないこと、多いです。
私の好きな布は、ウールのモコモコモッタリした、織りの粗い物。麻のシャリっとした感覚も好きですが・・・色は、いろんな色が好きであえていうなら、無地より、いろんな色が入っている表情のあるものが、好きですね。

エート、どこからお話したらいいのかな。・・・そう、はじめ中学生くらいのときは、美容師になろうと思ってたんです。大学進学のとき、手に職をつけたいなと、服飾系の大学へ行って、お洋服の製図とか縫う勉強をし、在学中にオーダーとかの衣装をつくるアトリエで見習いをしてました。そのあと、OLしながらも、自分でつくる仕事ができたらいいなあ、と。で、会社を辞めて、また、お洋服をつくっていたとき・・・すごく気に入った布があって、それで帽子をつくりたいな、と思った。帽子のことは、勉強したことなかったんですけど、立体裁断の勉強をしていたので、そのイメージでつくってみたら、小さな平らな布から、立体になっていくのが、面白くて・・・。
手先が器用かって? ウーン、小さいときから家庭科の図工は、得意でしたね。そうそう、飲食店でアルバイトしたこともありましてね、接客とかサービスとか、お客様に喜んでもらうのも、好きでしたね。でも・・・つくり始めたころは、ただ、形になっている、頭にハメるもの、みたいなのが、できあがりました。帽子をやっている人に「お洋服をつくる人の帽子だ」って、いわれた。でも、そこから、ムリやり抜け出すこともできないし、学校へ行くとか、先生についたりすると、それにとらわれちゃう気もして・・・ちょっとずつ、ちょっとずつ、お客さんの頭を借りて実験し、独学ですね。研究研究、ですね。
私、わりと早起きして散歩するんですが、あ、こういうところでかぶりたい帽子は、なんだろうと、考えるんです。それから、川とか見ながら、ああ、こういう流れを、自分のフリーハンドの線で出したいな、と考えたりもします。それから、自分が、ラクな状態で川に浮かんで流れて行く、なんか、そういうのって、キモチいいな、とも・・・ですから、私のキモチいい状態を、いかに形にできるか、キモチいい線をいかに落とし込めるか・・・研究ですね。

これが、帽子屋さんの道具として、参考になるか、どうか・・・。 ハサミは、タチバサミ。18歳から、ずっと使っている。紙を切ったりすると切れなくなりますからね、布を切るハサミとして、大切に使ってます。ハサミは、これ1丁。カッターも使います。フツーに売っているカッター。あと、糸と針。これも、フツー。それから、文鎮だ。これも、18歳から使っています。新宿のオカダヤで買いました。それから、メジャー。それから、ミシン。直線縫い専用のです。帽子でも、麦ワラ帽子みたいなものをぐるぐる縫っていくには、それ専用のミシンがあるんです。また、用途に合わせて、片ウデだけがついている、立体を縫いやすいミシンとか、各々専用のものを使うようですが、エエ、もう、私は、学生のときから使っている、直線しか縫えないミシン。ジューキミシンですね。
あと、縫いしろを割る道具。帽子用のものです。ほら、お洋服をつくるときに、「まんじゅう」っていって、袖の部分の形を出したり、縫いしろを割るときに使うのがありますよね。あれの帽子版・・・これでこうやって、帽子に丸みをつける。木の割り台ですね。あと、アイロン。小さいアイロンもあるんですけど、いま、こわれていて、フツーのアイロンを使ってます。あと、そうだ、鏡。ここをオープンするとき、大学時代の友だちが、買ってくれました。みんなに、鏡が欲しいんでしょ、といわれて、私、小さいのでいいっていったんですけどね。あと、頭。自分の頭では仮縫いできないから、芯を発泡スチロール、それにキルティングに使うワタを薄く切って巻いて、なんとなく自分がイメージする頭をつくった。
・・・こんなふうに、みんな、フツーの道具。いやあ、たぶん、私、そんなに器用じゃないので、まず身近な道具を使いこなしてから、と思っているうちに、そのまま時間がたっちゃったんですね。それと、布が好きで、他の素材を使わないってことかな。布だと、型が自由になる、微妙な調整ができる・・・だから好き。だから使います。

帽子のアトリエをここで、と思って、借りて始めて・・・実際、この谷中、根津、千駄木あたり、すごくいい場所なので、物件をみたときに、自分のためだけに使うのは、モッタイナイと思いました。なので、なんか、ここを展示する場所として提供することをやってみてもいいかな、と・・・ギャラリーをやらなくちゃと思ったんですよ。で、帽子のことは休んで、ギャラリーとして展覧会を企画したり・・・でもなんか、3年間つづけてみて、ツライ時代に入ったなと、思いますねえ。
展示の場所、ドンドンふえていく。私の実家のほうは、ギャラリーも少ないので、あ、できたよ、なんかお店ができたよっていうカンジで、まぎれることもないんですが、これだけ多すぎると見るほうはアキちゃいますからね。一生懸命、立っていないと、結構、シンドイ。両方、大切にしていきたいけど、帽子とギャラリーの両方はできないし、これからは期間を区切って、交替してやっていこうと思ってます。
その帽子の名前「limonata」は、レモネードのこと。コーヒーみたいな中毒性はないけど、でもけして嫌われず、あ、飲みたいなと思うものがイイ。私の帽子も、ほどよい距離感で、長く愛されて、そういう感覚でつき合ってもらえたらいいな、と。ギャラリーの名前「やぶさいそうすけ」は、郷里の富山の、ひいおじいさんの一人が「やぶさい」という屋号でまんじゅう屋をやっていた。もう一人が「そうすけ」という酒屋をやっていたから、その二つを合わせてつけました。
ハイ。私は、帽子屋です。私、職人さんでも、作家さんでもしっくりこないし、たぶん、違う。単純に、帽子屋さんですね。洋服を着るみたいなカンジで、自然に気ばらずにかぶれるものをつくりたい。その人にしかつくれない帽子がきっとある。そう思って、それに少しでも近づきたいんですよ。

「limonata」「やぶさいそうすけ」
東京都台東区谷中1-2-16
千代田線根津駅 根津神社方面出口より徒歩2分
TEL:03-5814-0331
谷中に帽子制作のアトリエを借りたとき、あ、しかし、ここは、いかにもいい場所だ、私ひとりで使うよりも……と吉川さんは考えて「やぶさいそうすけ」という名のギャラリーを開くことにした。
お知らせ
『 3月の帽子店 』
limonataの帽子は「その人に馴染むこと」をテーマのひとつとしています。 お客様の希望と、帽子としての実用と、視覚と触感のバランスをとりながら、 limonataが考えるその人に合う、シンプルで雰囲気のある帽子を提案していきます。
日 時:2013年3月1日(金)~ 3月7日(木) 13:00~18:00 ※最終日~17:00
『 4月の帽子店 』
4月の帽子店では、春夏向け帽子を一部販売します。3月の帽子店でご注文いただいた帽子の受け渡しも予定しています。 期間中は、自由にお入りいただけ、製作の様子をご覧いただけます。お気軽にお立ち寄りください。
日 時:2013年4月1日(月)~ 4月7日(日) 13:00~18:00 ※最終日~17:00
小関祥子『 紙もの、使うもの 』
イラストレーターの小関祥子さんが製作している「紙のもの」を中心とした展示を行います。 新作あり。販売あり。 期間中は、ワークショップ等、イベントも予定しています。
日 時: 4月25日(木)~ 4月30日(火) 13:00~19:00 ※最終日~17:00
『 はっと、ハット展 』
4人の帽子作家による、春夏向け帽子の展示会です。limonataも出展します。
日 時:5月10日(金)~ 5月21日(火) 13:00~19:00 ※最終日~17:00
太田理絵『 革でつくるWS 』※予約制
今回は、「WS・革の室内履きをつくる」(約 4.5h / 材料費込8000円 / 定員4名)に加え、「革の自由工作」も予定しています。
日 時:5月26日(日)10:00~(約4.5h)/ 5月27日(月)13:00~(約4.5h)
※上記のイベント詳細はこちらから