建築家と造る木の家 設計◆横内敏人
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木々が西陽をやわらげてくれるこの敷地ならでは。また、切妻の大屋根は軒の出も深く、デッキ上部は垂木を二段にすることで庇を十分確保している。キッチンにはトップライトからの光が差し込み、日中は照明が要らないほど。 設計は、自然と調和した家づくりに定評のある建築家・横内敏人さんによる。これまで手がけた多くの住宅のように、暖炉もこの家に合うよう横内さん自ら設計した。横内さんに家づくりを依頼することになったのは、建築関係の仕事をしている息子さんのすすめがあったから。いざ横内さんの住宅作品をインターネットや雑誌などで見てみると、庭や周辺の自然と一体感があり、心惹かれた。 依頼を引き受けた横内さんはすぐに敷地を訪れ、手つかずで生い茂った雑木林を見るなり、伐る木と残す木をその場で指示したそう。「そのときに『素晴らしい家ができますよ』と言ってくれたんです。きっとすでにイメージができ上がっていたんでしょうね」とご主人が思いを巡らす。元からある雑木林をできるだけ残したいとの願いは、初めから建主と設計者に共通していたようだ。〝照らす〟のが本来の火の役割「息子が小さいときから、煙突のある家を指さしては『あんな家に住みたい!』と言っていたんです」と、 奥さんは可笑しそうに話す。暖炉は夫妻の夢であると同時に、息子の夢を叶えてあげたいという親心でもあるのだろう。 日が暮れると、家の中の照明を消して暖炉の火だけにし、反対に外の雑木林に向けてライトを当てる。そうすると、「まるで外で火を焚いているような感覚になる」とご主人は言う。そもそも火には〝照らす〟という役目があったということに気づかされる、と。暖をとり、炎を眺めて癒されるばかりでなく、本質的な火の効用に思い至る。ゆったりとした暮らしの中で、たゆたう炎を眺めながら、Tさんはさらなる火の魅力を見つけていた。右上/キッチン上部は少し高めに設定し、トップライトと通気窓を設けた。自然光が十分に入り、空気もこもらない。 左上/キッチンに隣接する浴室からも雑木林が見えるので、開口は大きめにとってある。 下2点/南側にはバーベキューや薪割りなど、趣味や楽しみのためのスペースが。写真上は、ご夫婦で手づくりの五平餠を焼いているところ。

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