建築家と造る木の家 設計◆横内敏人
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ビングの暖炉近くに腰かけ、パチンパチンと弾けるような薪の音に耳を傾ける。「炎を眺めるのはもちろんですが、火の愉しみは何と言っても、この音ですね。いつまでも聞いていたくなります」。そう話すご主人の表情はどこまでも穏やかだ。 雑木林に寄り添うように佇む平屋。降り注ぐ木漏れ日がリビングの床にやさしく落ちる。Tさん夫妻にとってこの家は終の棲家でもある。現役時代は働き詰めで、家で過ごす時間もろくにとれなかったそう。そこで、定年後は趣味を満喫しながら悠々自適な暮らしをしたいと、数年前にこの土地を手に入れた。 家づくりを考え始めた当初から、夫妻は日常に火を取り入れたいと考えていた。徳島県出身のご主人にとっては、暮らしのなかに火があるのが当たり前だったという。「幼い頃に台所のおくどの火付けをしたり、苦労して風呂焚きをしていた記憶が頭の片隅に残っていたんでしょうね」。そんなT邸では、冬の間はほぼ毎日欠かさず暖炉に火を入れる。そのための薪割りもまったく苦にならない。〝自然の庭〟を生かしたい 西側の雑木林を家のどこからも望めるようL字型のプランにし、南西には大きな開口が設けられている。通常避けられがちな西側の開口を大きくとれるのは、78上/南側の前面道路から見た外観。もともとあった雑木林は手入れが行き届き、木々は天に向かって背伸びをしているよう。駐車スペース奥の薪棚には、来年の冬に備えて薪がびっしり。下/ご主人の20年来の趣味である、盆栽を愉しむための土間の作業スペース。寝室のサンルームも兼ねている。リ火を見つめ、趣味を愉しむぜいたくな時間

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