建築家と造る木の家 設計◆大野 正博
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61「手を合わせて、いただきます!」。 2階茶の間に、大人と子ども総勢20名の声が響き、賑やかな昼食が始まった。長さ3メートル強の座卓を囲んだ保育園仲間の子どもは実に12人。 ごはんの最中でも、泣いたり、笑ったり、怒ったり。ひとしきりおなかが膨れると、誰が音頭をとるわけでもなく、皆、あっという間にデッキに飛び出し追いかけっこが始まった。パーゴラとベンチのあるデッキをぐるぐる回っていたかと思うと、お母さんたちが恋しくなったのか、今度は室内に。床にぺたりと座り込む子もいれば、部屋でも駆け巡り、床の段差を飛び降りたり。奥さんも「こういうの、無法地帯っていうのかしら」と苦笑する。ゲームやタブレットの類があるわけでもないのに、皆、全力で仲間と遊んでいる。家という名のおもちゃ箱で。 愛媛県松山市の住宅街に建つM邸は、約40坪の二世帯住宅。2階茶の間は10畳強、そこに20人も集まれる秘密とは。「それは、この家に家具がほとんどないからなんだよ」と、設計を手がけた大野正博さんは言う。正確に言えば、ないのは椅子や移動できるテーブルなどの置き家具。M邸の家具は、ほとんどが床や壁と一体になった、造り付け家具なのである。 茶の間の中心も、台所と一体になった造り付けの座卓。片側にはベンチを置いているが、もう片側は床に座ってそのまま座卓下に足を入れられる掘り込み式。来客の数に合わせて椅子を用意しなくてもいいし、詰めれば大勢で一緒にごはんを囲める。それに何と言っても、すぐにごろりとできて、楽。「椅子座の暮らしだと、床に寝っ転がるのがはばかられるよね。けれども日本人は、床や畳でごろごろする気持ちよさを、捨てられないんだ」と大野さん。特にこの家では、床はもとより、家具・収納・建具に至るまで、上質な無垢材が家という名のおもちゃ箱床にごろりとしたくなるのは、日本人の血宿題はいつも、お母さんのそばで料理中のお母さんのそばで、お絵描きを。「お母さんがいつもいるからここがいちばん好きな場所」と、5歳のお嬢さんは言う。足を伸ばしてリラックスできるのが、床座の暮らしのいいところ。「マンションのときはソファがないと落ち着かなかったものでした。やっぱり床は気持ちいいですね」とご主人。椅子がないから、集まれる

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