住宅雑誌「チルチンびと」74号掲載 設計 大野正博
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子どもが小さかったので、自室に こもらない家にしたくて」と奥さ んが語るよう、親の目が届きコミ ュニケーションを図れる間取りだ。  部屋にこもらないのは、居間の 居心地の良さも大きいとご主人。 「特に冬は薪ストーブの熱や日差 しだけで、床が暖かい。外の騒音 は聞こえないし、庭を見ながら静 かに過ごすひと時は、最高です」  何気ない時間の大切さに気づい たのは、学生の頃に留学したアメ リカ東部でのことだった。「そこ には、暖炉があったんですよ」。 当初は家のなかで火を焚くなんて、 とびっくりしたが「スイッチ一つ で暖かくなれる時代、火を熾すの は手間でしょう。けれどもそんな 余裕があることが、とても贅沢で 素敵だな、と」。この家に薪スト ーブを望んだ理由も、火が体現す るゆとりの時間にあったと言う。  遊びに来た人、皆が気持ちよく ゴロゴロするというA邸。「一見 モダンだけれども、どこか昔の記 憶を呼び起こす居心地の良さがあ るんです」とは奥さんの弁。ご主 人も、「土間を上がると、ご飯の支 度をしているお母さんが、 〝お帰 り.って声をかけてくれるような 家なんです」。この家に漂う暖か さは、土間の火はもちろん、家族 のむつまじさにあるのだろう。 台所に立つと目の前は緑いっぱいの贅沢な眺め。気持ちよく主婦が家事をできるように、とご主人の希望もありこの形に。茶の間でごろごろくつろぐのも最高だとか。  

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