住宅雑誌「チルチンびと」74号掲載 設計 大野正博
5/8

チの高低差を設け、腰掛けられる ようにした。「大層でない用事に もかかわらず、部屋に通されるの は客にしてもストレスなんです」。 そうそう……と奥さんがうなずき、 「簡単な話なら土間ですませて、 すっとお帰りいただくのでもてな しも楽ですね」。確かに一昔前ま では、ご近所同士で土間に腰掛け、 茶飲み話に花を咲かせる光景があ った。実際に腰を下ろして、趣味 のヨットや自転車を熱く語るご主 人の話に耳を傾けていると、どこ か懐かしさがこみあげてくる。  設計当時、近隣の開発が予想さ れたこの家は、道路側に対しては 閉じ、代わりに中庭を「コ」の字 型に居室が囲うコートハウス。掘 炬燵式の座卓とひとつながりにな った台所からも、緑豊かな庭が一 望でき、「家で最も長い時間を過 ごす妻には、気持ちよく家事をし てほしい」というご主人の希望が 見事、形になった次第。  茶の間の突き当たりはテレビの ある居間、さらには子供室へと至 る。言い換えれば、自室から玄関 に出るためには、茶の間と台所を 通らなければならない。「当時は お子さんが小さい頃には花火をしたりビニールプールを広げたりと、思い出の積もった中庭とデッキ。 炎とくつろぐ 贅沢な時間 52  

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る