雑誌「チルチンびと」104号掲載 設計 川口通正
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内外に奥行きをもたせ豊かな空間をつくる 黄みを帯びた外壁に、瓦を載せた下屋、欄干が設えられたテラス。植栽が彩るポーチの玄関戸を引くと、畳敷きの廊下に迎えられる。O邸の落ち着いた佇まいは、Oさん夫妻の「家づくりのテーマは和モダン。日本の昔ながらのよさを生かした住みやすい家にしてほしい」という願いを、建築家・川口通正さんが実現したものだ。「中学生の頃から、京都・南禅寺別荘群の写真を見て、いつかこんな家が建てられたらと思っていました」というほど、和風建築に憧れていたご主人。家づくりに向けて準備をする中で転機となったのが、川口通正さんが設計した住宅の見学会に参加したことだった。奥さんは「それまで家づくりに確たるイメージがなかったのですが、川口さんが設計した家を実際に見て、こんな家を建てたいという思いが一気に高まりました」と振り返る。本格的に土地を探し始め、18坪弱と狭小ながら、3面が道路に面する東南角地という好条件の敷地に出会った。設計にあたって、夫妻が依頼したのは、家族一人ひとりの個室と、広いLDKを設けること。「主寝室と母の部屋、娘の部屋のほかに、客間もほしい。そしてLDKは12畳以上が希望と伝えました」(ご主人)。 これに対して川口さんは「法的に限られた建築ボリュームに、どのように家族4人の生活空間を確保するか。設計はまるでパズルのようでした」と話す。家族が長く過ごすリビング・ダイニングは、2階に設けることで広がりを確保した。「東南の開口部からの視線の抜けと吹き抜けにより、空間に広がりをもたせています。さらに室内に取り込んだ階段をベンチとしても使えるようにするなど、段差も有効活用しました。皆で過ごす部屋は豊かにして、寝るだけの寝室は狭くていいと割り切ってくださったご夫妻の決断にも助けられましたね」。 さらに、狭小空間に希望の部屋数を収めるために、すべてのサイズを少しずつ小さくしているという。「例えば4畳半の和室も、見た目は普通ですが、実際は少し縮めています。ドアや廊下など細部も少しずつ詰めています。でも、ほとんどの人が気づかないし、暮らしても不便はない。むしろ住み心地がよくなるように工夫しています」(川口さん)。

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