三重県編 その三

 三重の旅、移動中になんども茶畑を目にしました。茶畑といってすぐ思い出すのは映画監督河瀬直美の映画「殯(もがり)の森」。妻を失った男と息子を失った介護士が登場する映画で奈良の山間の茶畑の中を二人が追いかけっこをするシーンが印象的でした。伊勢の茶畑のかまぼこ状に刈り取られた有機的な形はやがて摘み取られ茶となるまで作業する人たちの働くものごしに重なり、すがしい気持になります。「美というのは羊が大きいと書く。日本では美というと、必ずしも西洋でいうところの美とは違っていた。」そうです。大きな獲物が捕れたときの喜び、茶の木が育ち、その収穫の祭りごと、自然と一体となった生活の「ハレ」のことを、日本人は「美」のようなものとしていたのではないでしょうか。旅は私に自由な想像力を喚起させます。
 
 
三重県立美術館
 
 二日目の朝は三重県立美術館にて「再発見!ニッポンの立体」展を堪能しました。展示されていたのは日本で古来より作られてきた仏像、神像、人形、置物、建築彫物、根付にいたる立体物。それらは西洋の鑑賞される彫刻とは違う性質を持ち、近年日本近代彫刻史の中で最定義されつつあるそうです。日本人が、自分たちが西洋化に突き進むあまり、独自に培ったものを傍らに置き忘れてきた「美のようなもの」の中に入るのかもしれません。

 
喫茶 tayu-tau

 
 さて次の目的地一身田(いしんでん)へ。津市の北部にある寺内町(じないちょう)*一身田は、真宗高田派本山専修寺(しんしゅうたかだほんざんせんしゅうじ)を中心として、大きなお寺や町並みが残る環濠に囲まれた町です。寺内町は、近畿や北陸を中心に発展したそうです。一身田の寺内町には、多くの寺社建造物や文化財、環濠や伝統的建築物が残っているのだそう。少し歩いただけで味わい深い通りだとわかります。喫茶tayutau(たゆたう)さんに向かいました。近代的な建物を改装したフレンチと和の風情が両方ある内装です。野菜たっぷりのランチと、いちごのデザートをいただきました。「食する人のために作る」心の伝わる食事でした。

 
喫茶 tayu-tau ランチ喫茶 tayu-tau ランチ喫茶 tayu-tau

 
店の一角にあるショップで見つけた矢谷左知子さんの「草暦」を購入しました。矢谷左知子(やたに・さちこ)さんは草の翻訳家。身のまわりの野生の草を主題に草と人がともに進む「草文明」を探求している作家です。これは旧暦の、二十四節気、七十二候、月の運行に基づいた草暦〔カレンダー〕。 ふつうのカレンダーと違うところは、草や虫、風、海や山のいきものたちの 季節の気づき、印しを暦にしてあるところ。6月16日は梅の実黄ばむ、6月21日は夏至、6月26日は菖蒲花咲く、といったように。この草暦は楮とマニラ麻とパルプ、紐は野生の苧麻で作られています。手触りは優しく自然100パーセント素材だからこそ、作り手の心情が伝わってくる気がしました。ここに「日本人としての美の表し方」の一例を見た気がして厳かな気持ちになりました。

 
一身田一身田矢谷左知子さん「草暦」

 
 *寺内町とは – 中世末期から近世初期に成立発展した人為的な集落で,おもに浄土真宗の寺院を中心に形成された。