石川県編 その一

平成30年、(2018年)金沢の冬は大雪です。北陸に寒波が居座り2月の立春から雪が降りやまないのです。車は完全に埋まり家々は雪に閉ざされました。こんなことは何年ぶりでしょうか。昭和56年(1981年)以来の豪雪だそう。

金沢で生まれた私。幼い頃、冬音もなくシーンとした夜は、決まって大きなぼた雪が降っていました。ウキウキしながら右足を一足、左足を一足とだましだまし歩きます。金沢はここ何年も雪は少なく、雪道を歩く勘は完全に鈍ってしまっておろおろ。とにかく金沢の懐かしい人々を訪ねて雪の細道を通り町中に出て行くことにしました。

めるつぼうめるつぼうめるつぼう

「メルツバウ」は金沢市尾山神社の斜め向かいにあります。この不思議なネーミングはドイツの現代美術家クルト・シュビッターズ(1887-1948)によって起こされた芸術運動の名前。創業したのは青山武(あおやま・たけし)さん。学生運動の時代に現代美術が大好きだった青山さんは仲間が集うこの喫茶店+ギャラリーをオープンしました。1975年のことです。この界隈は尾山神社の両側に小さな店が軒を連ねる繁華街でした。今もまだ何軒かは当時の面影を残し営業しています。当時の「メルツバウ」は内も外も木造。昭和30~50年代日本は高度経済成長の真っ只中。地方都市とはいえ、香林坊育ちの私は街中で安保反対のデモ隊の雄叫びを聞きました。「サーカス」、「不思議屋」、「もっきりや」、「年老いた子供」、「鳩」、「しゃんかある」、「ジョーハウス」など若者達がユニークなお店を金沢に次々にオープンしたのもこの頃。「メルツバウ」は金沢で唯一現代美術家が集まる店となりました。私も美大生の頃には大学が終わるとここに来て大人達のアート談義を聞いていたものです。

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店主の青山武さんはアートとカレーとコーヒーの店として波乱の時代に店をやりくりし、2006年56歳の若さでこの世を去りました。それから8年目の2014年、奥様の青山理圭(あおやま・りか)さんは一念発起。「メルツバウ」を大改装して再オープンさせました。飲み物のバリエーションも増え、お皿の上にハヤシを左、カレーを右にと両方の味が楽しめる「ミギカレー」(700円)は当時のままのお味。ミギカレーロゴのはいったオリジナルTシャツ「ミギT」(2700円、ミギカレーチケット付き3000円)まで作っちゃいました。カラーチョコスプレー、はちみつ、抹茶、コーヒー粉、ココア、シナモン、岩塩、黒みつなど自由にトッピングできるソフトクリーム(340円)、アイスクリーム付のアップルパイア・ラ・モード(500円)、濃厚なお味のピーナッツバタークリームパイ(300円)などデザートメニューも豊富。

お店の中では中古レコードのコーナーや、NYANCAFE-BOOKS の本も並んでます。サラリーマンやOLさん、以前から来ていた方々も顔を出してモーニングの時間帯はにぎやかに。理圭さんに最近の出来事を話したり日ごろの悩みを聞いてもらったりと昭和の喫茶店ではよくあった事。「最近は新幹線効果か、観光客の方もみえるようになりました。」毎日懸命に店をきりもりする理圭さんは「メルツバウ」の歴史をつないでいくのです。