福島県編 その一

冬が来る前に、とせかされるような晩秋の旅。私にとって初めての福島。緊張と期待がないまぜになった気持ちで出かけました。最初の目的地は猪苗代。「はじまりの美術館」を訪ねました。築130年の酒蔵を改修した美術館です。美術館の母体である社会福祉法人安積愛育園は、障がい者支援のための福祉法人として約50年間活動。「人の表現が持つ力」「人のつながりから生まれる豊かさ」を大切に、福祉とアートが共存し誰もが集える場所として、2014年にこの美術館は開館しました。

今村文 作品

今村文 作品

片桐功敦+Iam flower project《Iam flower project》作品写真

片桐功敦+Iam flower project《Iam flower project》作品写真

蒲生卓也 作品

蒲生卓也 作品



館内に踏み入ると木の香りが充満しています。なんと靴を脱いで展示室内に入るのです。足のうらに木目があたってとても心地が良く、リラックスして展示を見ることができます。建築と活動内容が評価され、2016年に福島県建築文化賞、建築学会作品選奨、2017年にグッドデザイン賞、と立て続けに受賞。2014年6月以来14回の展示がそれぞれが個性的なコンセプトで企画されています。「手作り本仕込みゲイジュツ」「この土地の温度を感じて」「絶望でもなく、希望でもなく」「あなたが感じていることと、わたしが感じていることは、ちがうかもしれない」「オソレイズム」「たべるとくらす」と、タイトルは何かイミシンで惹かれるものばかり。アウトサイダーアーティストとそうではないアーティスト達が同じコンセプトの元にチョイスされ、展示の核を作っています。ちょうど私が訪ねた時に開催されていたのは「プランツ・プラネッツ」。植物をテーマに七人の作家が選ばれ、展示されていました。その中の一人、今村文さんは、私が金沢で何度か展示をしたことのある作家です。紙に描いた彼女の想像上の花を、ハサミで切り取って見せる独自の手法の作品群は凛とした空気に包まれ圧倒されました。

プランツ・プラネット プランツ・プラネット企画運営の小林さんは、「アートと福祉というのはとても親和性があると思います。ボーダーがないからではないでしょうか。」とおっしゃいます。年齢、国籍、言語、性別、貧富や学籍、障がいの有無、何も境界がないアートの素晴らしさを発信して行く美術館。企画者も展示者も見る人たちも、ぬくもりと愛で関わる美術館。今後も応援して行きたいと思います。

撮影:白圡亮次