福井県編 その四

 先だってのコラムで紹介させていただいたウィギーカンパニーは、万葉集にちなんだ図案を描いていらっしゃいました。立ち寄った古本屋さんで見つけた文庫本の中にこんな和歌を見つけました。

 ひむがし(東)の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ (柿本人麿)

(日の出前の東天に既に暁の光がみなぎり、それが雪の降った阿騎野にも映って見える。その時西の方をふりかえるともう月がおちかかっている。)柿本人麿が旅の心情を歌にしたものです。旅に出ると自然の光景がより際立って見えてくるもの。初めて出会う景色に心が開かれているからなのでしょう。

 さて今回は南条郡の山の奥に雑貨屋をされているGENOME(ゲノム)へ。「都会ではさまざまなモノが氾濫する今、心研ぎ澄まされる自然の中でモノを見つめる新しい提案です。」ブログに書かれておりました。行ってみるとその言葉通りのお店が山の中にありました。
 
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 店主の藤原ヨシオさんは福井県南条郡生まれ。もともと町役場に勤めていましたがどうしても好きな雑貨屋をやりたい、と当時の上司に相談。役場を辞めて10年間お金を貯める、といったら10年我慢するなら役所勤めで我慢しろ、と言われ、その通り10年後に貯まったお金でお店を出すことができました。「あの時はまだ25歳、今考えたらその上司の助言があり実現したこと。とても感謝しています。」

 店舗は山の中。中は雑貨が所狭しと並べられ、昭和40年代ころによく見かけられたような文房具や雑貨が息を吹き替えしたように見えました。建物は3つに分かれており、ビンテージ家具や地元メーカーのカバンなどを置いてある場所、草木でできた雑貨やアジアの籠などを置く場所。建物の周りは藤原さんが一人で作ってきた庭。黒竹、もみじなどがのびのびと育っています。
 
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 なぜこんな何もないところでお店を?とよく聞かれるそう。地域を盛り上げるには3つの者が居ないといけない、「若者」「よそ者」「バカ者」僕はその「バカ者」に属するんだろうなあ、と藤原さん。バカ者ができることは小さいけれどこの町のためになることをコツコツとやっていく事。例えば「たくらCANVASマーケット」。これは福井大学工学部住環境計画研究室の先生と学生たち12人ほどで構成するグループ「たくらCANVAS」とタッグを組んで企画された。今年11月18日が4回目。お店前で行っていたフリーマーケットを発展させる形で開催することができた。会場である「宅良保育所」は自身も通っていた保育所。十余年ばかり前に幕を閉じたその敷地を使って雑貨店や飲食店など25店がブース出展するほか、恒例の一般参加型の物々交換ブースも設けるそう。

 単なる雑貨屋ではなくて、「ゲノム」(遺伝子)をリアリティーを持ってつなげていく。「何もない」といって地元を離れるのではなくて、「ないなら自分で作る」。そんなイメージを藤原さんは持ち続けています。