三重県編 その五

⾼度経済成⻑に⽇本が浮かれ始めた昭和40年代のこと。⾦沢の⾹林坊、という町に住んでいました。大きな⽬抜き通りから横丁にはいった木造三階建ての金沢町家が私の⽣家でした。⼀階で寿司屋を営んでいた⽗。旅館、割烹、天ぷら屋、⼩さなスナック、ダンスホールや洋⾷屋などが狭い通りにひしめいていました。

デパートのサイレンが鳴り朝がはじまります。天ぷら屋の入り口に魔除けの盛り塩がされ、髪にカーラーを巻いたスナックのおばちゃんが掃除を始めます。ガキ⼤将たちは⾦沢城のまわりの池や洞⽳探検の悪だくみをしています。
昼間の銭湯には⼊れ墨を⼊れたお兄さんたちがいて頭を撫でられたこと。八百屋の軒先で食べる冷えたスイカ。駄菓⼦屋でひも付きの飴を舐めて⾆が真っ⾚になったこと。⼣やけが真っ⾚にビルを染め、路地に打ち⽔がされると寿司屋にはのれんが掛かり、きらびやかな夜の情景がはじまります。10円アイス、揚げ油の臭い、市電の⾳。鉢植えの植物までが記憶に残る情景は、開発で跡形もなく消え去りました。そんなかつての路地の情緒を復活しようとしているささやかな試みを⾒つけました。

コトコトこみち

コトコトこみち

昭和レトロ銭湯一乃湯

昭和レトロ銭湯一乃湯

リスイタリア料理店

リスイタリア料理店

 
三重県伊賀上野駅から歩いて10分ほどのところにある30メートルほどの路地。レトロな建物でカフェを営んでいるcafé wakayaさんを訪問したら、若夫婦が、面白い通りがありますよ、と教えてくれたのが、『コトコトこみち』。
1926(大正15)年に建てられた昭和レトロ銭湯一乃湯の三代目店主中森さんが、『コトコトこみち』をはじめた中心的存在だそう。
小さな通りに小さなお店がオープンしています。リスイタリア料理店は町屋を改装したレストラン。足の裏をつかってふみほぐす施術をされる足圧屋みやもさん、マニアックスターカフェ(マルマ商店)は京都から移転してきたお店。スターウオーズなどのグッズがたくさん。
料理旅館を改装して、うどん屋さんになった九重(ここのえ)さん。

足圧屋みやも 軒先

足圧屋みやも

マニアックスターカフェ

マニアックスターカフェ

うどん九重

うどん九重


 
なんでも一乃湯さんの銭湯の駐車場を利用しての「コトコトよるまつり」は、この8月で3回目。コトコトこみち周辺のお店が出店し、地域の皆さんとの物々交換や情報交換、交流の場が作られているそうです。外から越してきた出店者を温かく受け入れ、コミュニティを作る「一乃湯」さんを中心とした試みは「銭湯」がお風呂だけではない日本の文化の一端を担っていたこと。その価値を受けついでいるからなのです。
無理のない「こととこと」の繋がりが日本人の「やわらかなもの」を守っていくのではないかと思います。今後もこの「コトコトこみち」に注目していきたいと思います。