困難な室内探検

精神的に滅入っている。もちろんコロナウィルスのせいである。本来はニュース嫌いで、恥ずかしながら世界情勢などに疎いままで暮らしているが、にわかに熱心に情報を求める日々を送っている。最初の頃はまだ余裕だった。「細菌」が最後には「宇宙人」を退治する、大好きな『宇宙戦争』(ハーバート・ジョージ・ウェルズ、初版本としても有名)の映画を夕飯の家族団らん時には見てみたり。けれども、あまりの世界情勢の深刻さに冗談も言えなくなった。年度末の出張も友人の誕生日会に行くのも中止。

室内で過ごす時にいつも思い出す、大切にしている言葉がある。それはかつてとてもお世話になった先生に教えていただいた言葉で、「室内探検」という。ユイスマンス『さかしま』のデゼッサントのように独身貴族的に「人工楽園」を求め、紙上に残された空想建築の途方もなさを味わい、動植物や鉱石標本をもとに自然界を表現した細密画を愛でるような時間。古典的なテキストに向き合って別の時代の空間へと旅する時間。室内探検は、「本」の世界とすこぶる相性が良い。

シーズンが訪れたドイツの古書オークション会社業界では、今回ばかりはオークションが次々とネット上のみでの開催に移行。インターネットオークションが徐々に主流となってきた世界の動きに反して現場を大事にしている人たちも、今回はネットに頼らざるを得ない。現場というのは、オークションの下見の日を設けて実物を公開して顧客と交流し、競りをホールで開催する場のことだ。

日本にいていつもほとんど遠方から参加の私にとっては、普段と変わらない。とはいえ、このところ毎日のように頭の中によみがえってくる記憶は、オークション現場の熱い空気だ。振り手と客のやり取りが見ものでもある競りや、下見の日に現物を手に取るためにやってくる人々の熱意。誰にも知られざるコレクションというものは、実はどこにもない。部屋でひとり静かに物を眺めることも大事だけれども、そもそも人と交流できなければ深まらない。みなさまとの再会を待ちわびつつ室内探検の毎日です。