金沢で稀少な楽譜を集める人

数ヶ月前、金沢を拠点として活躍されている音楽家、金澤(中村)攝さんから、彼が16歳当時録音したデビュー作レコードを譲っていただいた。私は疎くて全く知らなかったのだが、プロデューサーは、オーディオファンにとってはとても有名な存在、故菅野沖彦さんだとのこと。我が家のプレーヤーは針の状態も不安なものなので、多少ましなレコードプレーヤーのあるところに持って行って聴いてみると、もう素晴らしくてやっぱり金澤さんってすごいんだと涙が出るほど嬉しかった。

レコード裏面の菅野さんの解説には、「とても常識では考えられない思惟の深さと、すでに人生に対する激しい憤りが、その中学2年の少年の音楽から感じられる」と記されている。まさしくその通りだと他の形容が思いつかない。そして何より、モダニズムについての深い造詣と、モダニズムの意味に真摯に向き合い表現する力強さに頭がさがる。

金澤さんは、19世紀から20世紀初頭にかけて出版された楽譜蒐集家でもある。私がお訪ねするといつも、今日はドイツの古本屋からこんな楽譜が来ましたよ、と嬉しそうに見せてくださるので、本屋としても本当に勉強になるお付き合いをさせていただいており、深く感謝している。

さて、このところは、9月に金沢工業大学で開催されるバウハウス(ドイツの伝説的な造形学校)の百周年を記念する企画の中のコンサートにかんする打ち合わせで金澤さんをお訪ねすることが多くなった。

実は、金澤さんの第二作目のレコード作品は、パウル・ヒンデミットのピアノ曲の全曲録音で、19歳の時だった。ヒンデミットといえばドイツ近代音楽の巨匠であるが、実は彼はバウハウスと深くかかわっている。詳細はここにはまだ書くのを控えるが、目下金澤さんにプログラムを組んでもらいながら一緒に勉強していくのが楽しい。

このバウハウスのコンサートにかかわるきっかけとなったのは、そもそも、舞踊史研究家の芳賀直子さん(芳賀さんは私にとっては古本愛好家仲間なのです)から情報をいただいて、一昨年東京で開催された催しにのこのこと出かけて行ったことが始まりだった。それは、バウハウス100周年委員会設立の記者会見と、金属を身につけるのがドレスコードである「金属の祭」という遊び心にあふれた企画だった。そこで100周年委員会事務局の杣田佳穂さんとお知り合いになり、楽しくやり取りをさせていただくうちに、金澤攝さんとバウハウスのコンサートをしようという企画が自然と湧いて来た。その後、声楽家の東朝子さんや西田幾多郎記念哲学館の浅見洋館長にご相談しながら実行委員会を作る事になり、中村聖子さんはじめたくさんの方々にご賛同いただき委員となってご協力いただいて、そこへ金工大での日本建築学会大会開催に合わせて建築方面の方々と共同で企画しようというお話となり、今に至る。とにかくとてもとても楽しみだ!

 

世界中でたったひとり金澤さんしか現在演奏しておられない知られざる作曲家の名曲の数々、、、どなたか、金澤さんの録音を今一度お願いいたします。特に今はこの曲をものすごくレコードで聴きたいなと思う。