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怒号

竪山直孝(アートディレクター・グラフィックデザイナー)
1989年~1992年在籍

セツに通っていた方々は勿論、その他にもご存知の方はいらっしゃるかと思いますが、手脚の細い者はセツ先生直々にデッサンモデルに抜擢されます。私も入学して間も無くお声が掛かり、卒業してからの何年かも安月給で働く私の生活を支えてくれたのです。喧嘩して会社を辞めたある夏の日、「首になったらいつでも来なさい。」とセツ先生から言葉を掛けて頂き、取り敢えずの収入確保のためデッサンモデルを週1で入れて頂き生活を凌いだことも…。

手脚が細いというコンプレックスが一転、暮らしを助けてくれるのだから人前でポーズをとるなんて性に合わない私もかなり頼りにしておりました。
そんな経緯からセツ先生と接することも多かった私が、真剣にお叱りを受けたことなど…それは遅刻しようが、サボってテラスで煙草を吹かしていようが、御法度とも言える缶ジュースを持ち込もうが…なかったのですが、ある日、買ったばかりの裾幅の広いデニムを履いていつものようにデッサンモデルに臨んだところ、背後から「なんだお前っ!そのパンツっ!」とセツ先生の怒号ともいうべき聞いたこともない声が飛んで来たのです。

幅広のパンツがお気に召さなかった先生。これまた見たことの無い形相は大きなレンズのサングラス越しにも分かるほど。
休憩時間に先生の部屋へ連れて行かれ、クローゼットから「これ履けっ!」と何枚かの細身のパンツを出され…しかし幾ら何でも先生のパンツが私に入るワケもなく…。考えた私は裾をロールアップしてその場を凌いだのでした。

最初で最後でしたが、あれこそセツ先生のスピリットであったと思え、そして学校で過ごした楽しい時間の全てはそれで、そしてそれらが確実に私の血肉となり今日まで生きているのであると、ふとした時に思うのです。
 

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  1. 星信郎 より:

    そうそう、そうでした、セツの男性モデルさんはあれがナンギでしたね、「脚より細い細いパンツ」とか言って、ぼくたちは見ていて可哀想にと思っていましたよ。 それぞれ自分のおしやれスタイルがあるしね。
    しかしセツのモデルはセツ先生のモデルであるし、普通にかっこいいスタイルでは駄目だったもんね。堅山君 そのせつは本当に本当にご苦労さまでした。

  2. 竪山直孝 より:

    星先生、早速ありがとうございます。
    何と申しましょうか、いい加減何年もデッサンモデルをやっておきながらアレは私としたことが軽率でした(笑)。
    しかしあの頃は金銭面でも助かりましたが(笑)、メンタル面でも先生方には大変助けられました。
    誠にありがとうございます。
    それから最近私、サボりがちですが、また代々木デッサン会でお会いしましょう。

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