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セツコーヒー

中川ワニ(画家・珈琲焙煎人)
1991年~1993年在籍

僕がセツ・モードセミナーに通っていた頃から25年ほどが過ぎようとしているので、細かなことはすっかり忘れているが、通っていた人なら誰もが飲んでいたコーヒーがある。百円で、コーヒーかカフェ ・オ・レ。長沢節が淹れていた時もあれば、他の先生達、あるいは、職員の人が淹れている時もあった。これを、授業の合間の休憩時間に何とはなしに飲んでは、絵の話や他愛もない話を友達同士でしている時間が結構、楽しかった。コーヒーの味はといえば、美味しいとはまた別の長沢節好みの味がほどこされていたものだった。それなりに酸味の利いたコクトロな感じで、しっかりとした特徴があり、そこに砂糖をそこそこに入れて飲む味わいは、僕にとってセツそのものな感じがした。

長沢節という人とすごくよく話をしたわけでもないけれど、ある時、外のテラスでコーヒーを飲みながら友達としゃべっている時に、節がふらっと寄ってきて『Tarzan』という雑誌のこのページを読んでみなさい、と言う。多分、カラダにいい食べ物の記事だったと思うのだが、それを僕が読んでいる最中に、パレスチナに平和は訪れるかということを言い始め「和平条約」まとまるといいなあと、一瞬まじめな顔でそう言った。僕がその記事を読み終えると、いつもの笑い顔のセツに戻って「何だ、お前は」と耳をキュッとつねって何処かへ行ってしまった。

まあ、実によくわからない人ではあるが、僕は今でも長沢節という人の精神そのもののガッコへ通った時間があったことは、実に良かったと思っている。ここでの時間の中で、自分にとって大切なことは何かを自覚することも出来たし、何より、自分なりの美意識を宿して生きていくことの大切さを、長沢節という人から間接的に学ぶことが出来たのだ。美しいものの先にある自由、そして、美しくないものに対する反骨精神。カタチはそれぞれ違うけれど、そんなものをちゃんと持っていた人にある時会えたのは、照れくさいけれど、実に良かったなあと今でも時折、思っている。
 

1件のコメント | RSS

  1. 星信郎ゆう より:

    どうゆうことかな? ぼくのコメントが消えてしまってる。
    近ごろつくづく思うのだが美味しいコーヒーを淹れたり、美味しい料理をつくって他人に喜んでもらうこと、こんな確かなことってないね。 ぼくは絵を描く時よりそっちの方が本気。
    セツ卒の角田侑右弍くんはコーヒー焙煎を自分でやってる、ぼくがそのコーヒーを淹れた。藤野の写生会のおきまりごとです。 いつか中川さんの焙煎したコーヒー飲んでみたいもんだ。
    実はね、セツのコーヒーはいちばん安い豆でしたよ、それをセツ先生は「美味しい美味しいブルーマウンテンストレート」とか言ってましたが誰も信じてなかった。

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