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セツ先生を追っかけて

森谷 満美子(イラストレーター)
1990年~1995年在籍

24歳の時、ずっと好きだった絵を描くことを本気でやろうと、会社を辞めてアルバイトをしながらセツで学び始めました。
 キラキラした生徒たちの中で、ちっともセクシーでない私は特に声を掛けられることはなく、合評で素通りされることもしばしばでした。でも次こそは、と奮起し、休日も大きな画板と絵の具を抱えてあちこちスケッチに出かけるようになりました。

セツでは年に一度、ヨーロッパスケッチ旅行があるのですが、貧乏フリーターの私には豪華すぎでしたので、お金はないけど時間はある友人と二人、セツの追っかけ旅をすることにしました。格安の片道航空券を買い、安宿を転々としながら、セツ先生お気に入りの南仏とイタリアの海岸をスケッチして巡る旅です。出発してひと月近く経った頃、ヴィルフランシュの海を望むホテルの前で、そこに泊まっているセツの人たちにやっと会うことができました。ヨレヨレの、よく言えばこなれた感じになった二人を見てセツ先生は、「おまえたち、よく来たねー。」と言ってくれました。友達が「おまえ」だとすると、私はまぎれもない唯一の「たち」として、やっと目の中に入れてもらえたと感じました。 
 益々やる気が出た私たちは、行く先々で絵を描きまくり、3ヶ月を超える長旅となったのでした。そうして描き溜めた絵をファイルにして売り込みをし、イラストの仕事ももらえるようになりました。

現在は主婦兼業で日々雑務に追われていますが、家の中を見回してみると、この原稿を書いているテラスのチェアはセツにあったのと似ているし、朝食はくるみとバナナを乗せたトーストで、がやがやお喋りしているのは細長い手足の子供達です。セツで学んだことは私の暮らしの中にも生かされているでしょうか。
 セツ先生、これからもずっと追っかけさせてくださいね。
 
 

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  1. 星信郎 より:

    セツ先生が亡くなった翌年、生徒30数名と連なって南仏からイタリアナポリ近くのプロチダ島へと写生旅行をしてます。
    この絵はニース近くの小さな港町ヴィルフランシュですね、先生の定宿だったホテルウイルカムの三階角部屋へ僕も泊まって みましたが、なるほど素敵な眺めでしたよ。朝食のクロワッサンとカフェオレが美味しくてラウンジにはセツ先生の風景画が掛けてあって、、、「セツ先生を追っかけて」の旅行でした。

  2. 森谷満美子 より:

    星先生、早速のコメント、ありがとうございます。
    そう、ヴィルフランシュです。私とめぐみちゃんはホテルの中までは入れなくて、入り口近くでスケッチをしました。近くに泊まりたかったのですが、どこも高くて、ニースの裏通りに拠点を据えての日帰り旅行でした。セツ先生がよく描いていた窓のあるお部屋、覗いてみたかったです。
    重ねて描いたセツ先生のデッサンは、1991年9月、群像デッサンの時にこっそり描いたものを写しました。
    とっておいた昔のデッサンの中には、かっこいい星先生もいくつもありますよ。

  3. 星信郎 より:

    そうでしたか、ニース裏通りからバスで、胸がジーンとするいい話です。
    僕だって昼食はやすそうなレストランを探し回って、、、結局はサンドイッチと水を買って海辺で食べるのがしょっちゅうでしたよ。そんなことがいつまでも心に残って、贅沢すぎるホテルのことなど忘れてしまって不思議です。
    めぐみちゃん? なかなかまぶたに浮かんでこないがお元気でしょうね。

  4. つねちゃん より:

    すごい体験ですね、私も、お金がなくて行けなかったけど、当時、こんなタフな方がいたなんて、うれしいな。
    今でも、きっと私にはできないな。3か月間、みめ麗しい乙女たちはどんな生活しながら旅したんですか?

    • 森谷満美子 より:

      つねちゃんさま

      年の暮にコメントをくださってありがとうございます。
      気がついたのが今頃で申し訳ありません。

      当時持っていたのは若さと好奇心だけ。責任も不安もないからこそできた旅かもしれません。
      でも、60歳ぐらいになったらまたやってみてもいいかなと思います(^_-)

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