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「お前、生意気だねー」

日下部 光直(建設業)
1996年~1999年在籍

俺が、大好きな人だった。

基本、粋な感じだったが、どこで売ってるのと言うような銀色のズボンを履いてた事もあるし、ボタンを押すと額でルーレットが回る帽子を被ってた事もある。
 デッサン描きながら「ほら!うまいね〜 A!」とか、一人で言ってた。凄い美少年だったと、著書かなんかに載ってる写真を見せられた。
 俺は長沢セツという人を知りもせず、友人の勧めでセツ・モードセミナーに入ったような若造だったので、今思えば随分な事を色々聞いたし、「セツ爺さん」と呼ぶ度に「お前、生意気だねー!」と、何度も言われたものだった。

「綺麗なものが好きなの!男とか女とかじゃなく何でもね!」
 「品のある事が大切、それを見極めるのがセンス。お前はセンス無いねー!」
 「コーヒーがカップに入ってるとステキでしょ、ステキな物はお前でも美味しく感じるでしょ」
 「セツ風の色使いって言うけど、じゃあ俺が一番上手いって事だよね。だって俺の事なんだから。悔しかったらお前も何でもいいから見せてみな」
 格言かなんだかよく判らない言葉を幾つも覚えている。

現在、俺は全く違う分野で仕事をしている。
 セツ爺さんの目利き通り、どうやらセンスは無かったようだ。
 ただ今回、稚拙な文章ながらでも書かせて貰おうと思ったのは、たとえ芸術云々の分野で飯を喰ってなくても、長沢セツを人生の糧としている、自分のような者もいる事を伝えたいという想いがあったのだ。

芸術の分野で囲ってしまうには勿体ない人だった。
 考え方、生き方、物の見方。 教える気は無かったかもしれないが、俺は、沢山のカラを破って貰った。
 こんなにワガママに生きても許されるもんなんだなと、思わせてくれた。
 沢山のセツ生の中の一人だった俺の耳を「生意気!プ!」とか言いながら、引っ張った。何すんねん。

俺の、大好きな人だった。

1件のコメント | RSS

  1. 星信郎 より:

    ふざけた会話の中で教えるセツ先生の様子が懐かしい。
    6月23日が命日でした。

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