全国版コラム 大皿こぼればなし

梅漬け

水

梅雨に入る前の五月晴れ、梅仕事をはじめた。店頭には小梅、南高梅、白加賀の順で並んでいく。粒の大きさ、用途そして値段をいろいろ加味して、白加賀を家族と梅好きの知り合いの人数分五キロぐらい購入。帰宅して袋を破り青梅をボウルに移す。するとあっという間に梅の青すっぱい香りが周辺にふわっと起ちあがる。梅仕事のベルが鳴ります。

「青梅はそのままで食べたらお腹こわすよ」と母から聞いていたので食べることは絶対にしない。でも梅の香に包まれ、手頃の大きさの実を手にするとついつい口元に運び…一口申し訳ない程度にかじっちゃう。そして間髪いれずにペッと吐き出す。鼻にすーとぬけていく青き爽快感。梅ひとつひとつに気持ちが入っていく気がする。夕刻、ボウルに梅がひたひたになる位水を張り、一晩置きアクを抜く。浮いてくる梅は不良品。キズがあるもの、打撲を負っているものはこの時点で不良品。取り出して分けておく。次の仕事―梅の「へた」を爪楊枝で取る。ひたすら頭の中を真っ白にして手元にはプツプツ「へたの抽象」が新聞紙の上に描かれる。次に肝心の塩分量。以前、健康を考えて塩の割合を少なくしたら大失敗した。今年は梅全体量に対して15パーセント。経験からかびることの少ないお手頃分量なのだ。樽の中に、塩、梅、塩、梅、の順の層状にして最後に塩を敷く。この後、樽を動かすことはぜったい厳禁。塩のいきわたりのバランスを崩すことになるからだ。重しをやさしく乗せて「梅酢」があがってくるのを待つ。数日するとたっぷりの梅酢の中に梅が沈み、透明感がまぶしい。ここまで来るとほぼ成功したと思っていい。紫蘇で色づけするか? このままでいくか? 結局このままでいく梅漬けを選択した。数か月後に蓋を開けるときの期待とほんの少しの不安。年に一度の「初物」に会えることが少なからず生きる力になっている気がする。

良品はカリカリの梅漬けになり、不良品はとういうと・・・捨てられることなく小さい鍋のシロップ煮で楽しんだ。毎年僕の中で梅ひとつひとつが散ることのない二度目の花を咲かせてくれる。

まん丸にしわをよせあう梅仕事    宗介