全国版コラム 大皿こぼればなし

ソース焼きそば

鴬語花舞

四十年前のおはなし。バスターミナルの近くの商店街には、時計屋、雑貨屋、蕎麦屋、スポーツ用品店、タクシー会社などがその土地の時の刻みのなかで静かに息づいていて、その一角に食事処「一休」は店を構えていた。

店内は広く、ぽつんぽつんと四人がけのテ-ブルが数卓ある。カウンターを隔てて奥に厨房があり、これまた余分に広い。たまに友達と行った。決まった場所に決まったお客さんがいて甘味を食べている。壁張りのお品書きの品数はいたって少ない。中華そば、甘味、そして焼きそば。

「すみません」の一言の注文では通らなくて再度大声で「すみません」。しばらくして奥の方からおばさんが出てきて注文をとりにくる。広告の裏白の再利用メモ用紙にちびた鉛筆で書く――「ヤキ」と「中」。軽く会釈して厨房にもどっていく。遠くの方から作っている音がして、しばらくして美味しい香りがしてくる。香りに包まれて出てくる焼きそば。太めの麺はウスターソースにからまして焼き、その上にざくっと切った細青ネギがたっぷりのっているシンプルなもの。肉が入っていたかは思い出せない。ひたすら「ソース」と「焼く」と「そば」の三者に徹する。濃厚な味の麺に青ネギの辛味がこれでもかの世界を作り出す。

となりで友達は中華そばをすすっている。僕は無言で究極の焼きそばに酔っている。両者一息ついたところで相手のものと交換して「一休」の味を二倍楽しんだ。満腹は満足に変わる。ポケットから小銭を出して大声で「ごちそうさまでした」。奥からは「・・・」。何も慌てることなく出てきたおばさんは、手渡しでお会計した際「どうもね」と一言・・・奥に吸い込まれていった。

一煙の香奥に残してそばを焼く   宗介