全国版コラム 大皿こぼればなし

ファミリーレストラン

葉落ちて秋を知る

 

子どもの頃、デパートにお出かけすることは特別な行事であった。ひとつ上の兄と僕は、母お手製のお揃いの上下服を着て、白い服、少し長めのソックスを履く。ふたつ下の妹は、髪の毛に編み込みをいれておめかしをする。母は、よそいきの服に袖を通して身支度を済ませる。自宅付近とは異空間のビルの街にデパートはあった。人混みに洗われるようにデパートに到着する。最初は母のナビで行動し、用事が済めば主導権は自然と僕たちに移った。とにかく階を上り・・・最上階の屋上へ。簡単な遊具、釣り堀、盆栽と観葉植物売り場、ペットショップそして軽食コーナーと、そこはアミューズメントパークだった。母からの少しの軍資金で干渉されることなく、がんがんと太陽の光を浴びてひとしきり遊んだ。動いて、興奮して、緊張して、はしゃいだら腹は減る。階下のファミリーレストランに直行する。入口には長い行列。母が並んで僕たちはショーケースのサンプルとにらめっこ。悩み、なやみ、悩んでなやむ。兄と妹はさっさと決めて人の列に合流している。僕は未だ決めかねる。いろいろなサンプルを見ているうちに、それを味わっている自分がいる。実際、食べもしないのにお腹が満ちてくる。どこかの中枢神経を見る行為が刺激して「満腹の僕」にしたのかもしれない。本当に不思議だった。結局、美味しそうに食べている母、兄、妹の脇で僕はつまみ食い程度の昼食を済ませる。なんだか釈然としないまま、帰宅すると急に空腹感が襲ってきた。インスタント食品をカッ喰らう。僕にとってこのお出かけはなんとも情けない尻つぼみのものになってしまった。

そうそう、この前の話。新聞の折り込みに回転寿司の広告が入っていた。生本マグロ、ボタンエビ、季節の青魚など色、艶、鮮度がピカピカしている写真。その一貫、一貫切り抜いて貼って目で楽しんでいたら、家内が一喝「貧乏くさい」と無残にも剥がされた。実は小声で白状します―「脂がのっておいしかったです」

おいしさを見て膨らます食の秋   宗介