Hさま
 
大分県で林業を経営しております田島信太郎です。
お手紙をありがとうございました。
 
70年~80年生の杉林をお持ちとのこと、またそれをお手入れされているとのこと、私にとっても大変うれしいかぎりです。
私が住んでいる大分県日田市中津江村は、それはそれは奥地で、たぶん私が経営する田島山業株式会社は大分県では大分県庁から最も遠い企業、日田市では日田市役所から最も遠い企業です。
そんな山の中ですから周囲は全て森林ですが、どの森林にも所有者がいます。
地元に住んでいる人、都会に住んでいる人、国有林、県有林、市有林など国や県、市町村が所有者の場合もあります。
しかし総じて言うなら、どの森林も管理不足で、きちんと手入れが出来ていません。
先祖から受け継いだ20数本のスギ林を、不慣れにもかかわらず手入れをして美しい森になったとすれば、それは素晴らしい事だと思います。
私はプロとして林業に従事していますが、要は森林内の環境を整え、木々が健康に育つことを目指しています。
それはまさに「美しい森」に他なりません。
どうか御自身の目を信じて美しく育て、受け継いで下さい。
 
我家は鎌倉時代から当地で生きて参りました。
所有する森林は先祖から営々と受け継いで参りました。
しかし現に森林に入り、木を眺め、土に触り、そこに住む動植物を見るにつけ「これは私の所有物だ」と言っても全く実感がありません。
先祖から受け継いだものを後世に遺していくという、漠然とした使命感があるのみです。
森は所有物ではなく「預かりもの」だ。私たち家族はその管理者に選ばれてしまったんだと、良くも悪くもそれを受け入れて参りました。
 
世界中で環境問題解決が必須となった今、私たちは自分たちの生活から排出される二酸化炭素をオフセットする事が求められています。
どうか、ご所有の杉林を無理ない範囲でけっこうですから、大切に育てて頂きたいと心より願います。
なにぶん田舎ですが、もしお近くにお出でになる機会があればお寄り下さい。
お待ち申し上げます。

 

田島 信太郎

 

森からの手紙
 

profile

田島信太郎 Shintaro Tajima
田島山業株式会社 代表取締役/大分県林業経営者協会理事/(社)九州経済連合会九州次世代林業研究会委員/日田林業500年を考える会会長 1980年慶応義塾大学法学部卒。西武セゾングループ代表室勤務を経て、1988年、父、祖父の急逝に伴い、家業を継ぎ林業経営者となる。日田林業500年目にあたる1991年、子どもたちを対象とした森林環境教育、また学生、社会人の森林ボランティア受入れを開始。「断固森林を守る」取り組みを続けている。

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