夕暮は雲に埋まり春祭
廣瀬直人

 

越中五箇山の春祭りを訪ねた。

幟も見えず、露店もなく、人影もない。山々はまだ枯れ木の色で、寒々としている。祭りの気配がないので心細くなってくる。軽トラックが走ってきて私の前に停まった。白鉢巻にピンクや黄色のたすきをかけた角兵衛獅子のような格好の子供たちが荷台から降りてくる。「獅子あやし」役の子供たちだ。ほどなく神主と獅子が登場し、笛や太鼓も加わって獅子舞が始まった。獅子舞は氏子の家を一軒一軒回り、舞を披露する。村中の氏子の家を回るのだから重労働である。男達が躍動する五箇山型百足獅子。
 獅子あやしの子供二人が飾りのついたシシトリボウを手に持って、鈴を鳴らし、獅子を牽制しながらくるくる回る。舞うほどに子供の装束の色が景色の中にこぼれてゆく。青空に遠嶺の雪が光る。長い冬から開放されて、人も自然も至福のひととき。

掲句は、そんな春祭りの夕暮の景。薄桃色の雲が広がる空の下、満ち足りた村人の顔が浮かぶ。「夕暮は」の断定で、「永き日」の季感の心地良さも深まった。

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山上 薫
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