オイシイモノ紀行 四国編

砥部焼・梅山窯 ポット カップ春摘みの茶葉がお店に出始めて、紅茶がおいしい季節になってきました。なのに、つい先日、薄手の磁器のポットを壊してしまいました。お~、残念。20年大切に使ってきたのです。間に合わせに、毎日使っている緑茶用の急須を代用しました。ぽってりと厚手の磁器、地元の焼物砥部焼です。おやっ、おやおや、これが、なんともいい感じです。厚手だからでしょうか、お湯がさめにくくて存分に葉を開いてくれます。砥部焼は、焼物通の間では頑丈な日用雑器として定評がありますから、日常使いによいかもしれません。さっそく紅茶ポットを探しました。いろいろありました。が、伝統砥部焼といえば、白地に呉須の藍色唐草模様であってこそ。迷わず唐草ポットに決めました。厚みがあるので、どっしりと安定感があります。白磁が清潔です。カップも探しました。ミルク用のマグカップが気に入りました。唇へのあたりがやさしくてふんわり気分にひたれます。失敗のおかげでこんな素敵なお茶セットがあることを知りました。ふつつかな自分に感謝です。
 
ところで、あなた様はお茶を召しあがるときポットに帽子をかぶせてます? その昔、飯田深雪先生――外交官夫人としてヨーロッパ文化を日本に伝えてくださった草分け、フランス料理の先生としても高名でいらっしゃいました――をお訪ねした折、どうぞと紅茶をすすめてくださりながら、「あなた、お茶は熱くなくっちゃいけません。お帽子は必要でございますよ」とおっしゃられました。それまでポットの帽子はアクセサリーでしょとあなどっていました。が、それを機会に使ってみると、おお、なんと、かぶせている間にポットから出た熱を増幅させるのでしょう、取っ手までも熱々になってふうふう吹くようなお茶がいただけます。1杯目をカップに注いだ後もかぶせておきます。2杯目も変わりなく熱々がいただけます。多少安物のお茶でも、ティバックであっても、きれのよいグレードアップの味わいになりますよ。ぜひぜひのお勧めです。専用の帽子でなくても、冬の毛糸帽子でも大丈夫です。
 
先生は私ごときにも、いつでも黒いドレス・三連のパールネックレスで迎えてくださいました。人を迎えてお茶をいただくようなときはかくあれと、範を垂れてくださっていたのですね。お茶の帽子を手に取ると、先生のあの凛としたお姿を思い出します。
 
 
■香りよく深い味わいに紅茶を淹れるには沸騰湯をたっぷり用意することから始まります。
 
① ポットもカップも熱湯で温めておく。
② 茶葉は小さじで人数プラス1杯。ポットに入れて沸騰湯を注ぐ。
③ 帽子をかぶせて、指定分数おく。
④ ポットの中をスプーンで静かにひと混ぜして、カップに注ぐ。
⑤ 2杯目のために帽子をかぶせておきましょう。
 

梅山窯
〒791-2132
愛媛県伊予郡砥部町大南1441
TEL:089-962-2311
大本幸子(おおもと ゆきこ)

愛媛県松山市生まれ。中央公論社16年間勤務。後、編集事務所STUDIO OMT主宰。エディター& ライターとして、料理ジャンルの書籍・雑誌・PR誌制作にかかわる。ペンネーム大本幸之丞。
著作書籍に「おたずね申す、日本一」TBSブリタニカ、「泡盛百年古酒の夢」河出書房新社、「芋焼酎の人びと」世界文化社、「北島亭のフランス料理」日本放送協会、「簡単ではない」日本放送協会、「続簡単ではない」日本放送協会、「簡単だった!」日本放送協会など。「パスタ歳時記 片岡護」講談社 他、編集本など多数。

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